METAFIVEから新天地へ向かうTESTSETという名の電車
砂原良徳、LEO今井が語る1st『1STST』

 正式な結成は2022年だが、TESTSETにはプロトタイプが存在する。いうまでもなく前年のフジロックフェスティバル出演時のことで、彼らはまだMETAFIVEと名乗っていた――。高橋幸宏、小山田圭吾、砂原良徳、テイ・トウワ、ゴンドウトモヒコ、LEO今井からなるMETAFIVEの活動は2021年夏、中心となる高橋幸宏の病気療養で暗雲がたれこめ、東京五輪に端を発する小山田圭吾のいじめ問題の再燃で暗礁にのりあげつつあった。そこにコロナ禍が追い打ちをかける。2021年7月にリリースを予定していた2作目『METAATEM』は発売を中止(のちに同年11月の無観客ライヴの特典として発表)し、同月末の自主企画ライヴは中止となった。出演が決まっていたフジロックは特別編成で臨むとの周知もあり、METAFIVE総体がこのまま自粛モードへ収斂していくのかという漠とした不安があったればこそ、開催の是非を問う声をふまえてもなお、(私はPCの画面越しの視聴ではあったが、それでも)のっぴきならない思いを伝え来る、決然たる面持ちがうかがえたのである。

 舞台のうえにいた砂原良徳、LEO今井、白根賢一、永井聖一の4名、特別編成のMETAFIVEは翌22年、TESTSETに生まれかわる。後身の活動を本格的に開始した理由について、砂原良徳はリハーサルの時点で手応えを感じていたこと、METAFIVEの第2シーズンが(結果として)消化不良に終わってしまい、余力がのこっていたことをあげてながら、ことの顛末の以下のように喩えている。

 「海外旅行に行こうと思って、スーツケースのなかにいろいろ詰めこんで、さあ行こうか、という段階でやっぱり止めたとなってしまった。じゃあ目的地をちょっと変えてみようということですよね」

 新たな目的地はロックなのかエレクトロニックミュージックか、それとも人跡未踏の未聴の領域なのかはわからない。とまれGREAT3からソロプロジェクト、プロデュースや楽曲提供と多彩きわまりないドラマーの白根賢一、相対性理論のギタリストにして幾多の音楽的な抽出をもつ永井聖一と砂原+今井の布陣にはかつて耳にしたことのない化学変化を期待するに充分な潜勢力を秘めているかにみえた。白根、永井と砂原は高橋と鈴木慶一によるビートニクスのサポートなどで共演歴があり、手の内はいくらかみえていたとはいえ、平時でこの4人でやってみようということにはおそらくならなかった、と砂原は述懐する。いわば特殊な状況と事故のようななりゆきで生まれた非常時のグループがTESTSETであり、それにより彼らは存在としては流動性に、サウンドとしては例外性にひらかれていく。ところが作品がもたらす印象はMETAFIVEよりTESTSETのほうがよりバンドらしい。一体感が高まっているのである。そのことはアルバムという厚みのある形態においては疑うべくもない。

TESTSET 『1STST』 ワーナー(2023)

 ファーストアルバム『1STST』の制作がスタートしたのは2023年初頭。ゆっくりはじまり、途中サクサクすすみ、後半詰まった、と砂原は制作過程をふりかえる。とはいえ各自が楽曲をもちより、個々のメンバーの手を経て完成にいたるプロセスはMETAFIVEとほとんど変わらない。他方、楽曲のイニシアチヴを作者がとっていたMETAFIVEにたいしてTESTSETでは砂原がサウンドの最終的な調整役をうけもったという。しからばTESTSETのリーダーはまりん氏なのか。

 「TESTSETにはリーダーというものが存在しなきゃいけないとは考えてないんですけど、制作の後半はスタジオ作業になっていくので私の作業の比重が大きくなるんですね。(音の)バランスをみるのも自分の仕事だと思っている部分もあります。基本的に運転手はLEOくんで私が車掌みたいな感じなのかもしれません」

 ふたりのあいだに白根、永井両名をはさんだ電車ごっこの図が不意にうかんで眩暈がしたが、運転手のLEO今井は高橋幸宏とともにフロントに立っていたMETAFIVE時代に較べて、負担を感じないのだろうか。

 「TESTSETでは歌うパートがちょっと増えた感じはありますけど、METAFIVEでも、この曲はギター、この曲はシンセという曲があったかと思えば、カウベルに命をかけるような曲もあったので、けっこう忙しかったんですね。これからは曲によってはヴォーカルに専念したり、演奏するのもシンセにとどめたり、もうちょっと平等に、ビジーさをちょっと解消させようかなと思っています」

 今井の回答はグループ内での自身の立ち位置ばかりか関係性の変化をほのめかしている。「平等」の弁は砂原の発言における序列の不在ともかさなりあう。明確な記名性の合算から分業体制による諸力の乗算へ。先に述べたバンド的な一体感もこのような変化に由来するのだろうし、『1STST』はその最初のまとまった報告といっていい。

 

 テクノとロックをタイトにミックスした“El Hop”で幕をあける『1STST』はニューウェイヴ風味をきかせたファンクチューン“Moneyman”に疾走感のバトンを渡し、白根賢一によるエレクトロな“Japanalog”、ディスコテティークな“Dreamtalk”へつづく中盤以降は多様性へおりかえしていく。今井らしさが前に出た“Over Yourself”と80Sポップな“Bumrush”、掉尾を飾る“Stranger”と“A Natural Life”では永井のセンスとプレイがTESTSETの間口を広げていることに思いいたる。久方ぶりにアルバムらしいアルバムを聴いたという満足感をおぼえる一作だが、その余韻の背後には「オムニバスやコンピレーションではなく、ちゃんとバンドのものにしたい」(砂原)との狙いがあり、そのような構えを貫徹することで、『1STST』はTESTSETの別天地となった。そこにいたる道のりはなまなかなものではなかったことはすでに述べた。おもな要因は自身の強欲さだと砂原はいう。「もっといいのが出てくるんじゃないか、なにかに気づいていないことがあるんじゃないか」とつい考えてしまうのだという。

 「電車のドアしまってもまだ乗ろうとするというか、なんらな閉まりかけのドアに傘の先をさしこんで、まだあきらめない。反省はしてみるんですが、また同じことのくりかえしなんです」

 車掌役を自認しながら運行ダイヤの狂いをいとわない創作欲には頭がさがるが、全身全霊を傾けつづけてはじめて、音楽は記号や様式に還元しえない奥行きをもつ、との確信というよりは習い性になった営みのようなものを砂原のことばは感じさせる。注力の対象は楽曲の旋律、リズム(パターン)、アレンジといった細部のみならず、作品の構成や構造といった全体におよんでいく。アルバムの構成については「僕が提案した曲順と砂原さんのはほぼ一緒だった」と今井はいう。それをひきとって砂原は「微調整はしたかもしれないけど、5~6曲仕上がってきていた段階で、だいたいこんな感じかなという自分のなかにあったイメージがLEOくんと一致しました」と付言する。今井はさらに、この展開には夜から朝へむかうようなイメージがあると説明する。「不穏でエレクトロ色の強い、夜っぽいちょっとキラキラギラギラした感じから後半にいくにつれてトラディショナルなバンドサウンドが入ってきて、ある意味明るくなっていく」。この見解はサウンドにも、具体的にあらわれている。1曲目の“El Hop”の冒頭、シンセの皮膜の向こうにうっすら聞こえる鳥の声は夜のものであり、終曲の“A Natural Life”ではそれが朝の声になっている。砂原によればそれは同じ場所で、循環する時間をあらわしているのだという。

 「前向きとか後ろ向きとか、そういった話ではなく、黙っていても時間はすぎ、ドラマ性が自然にうきあがってくるということなんですね」

 砂原の発言にはMETAFIVEからTESTSETへの移行を彷彿するものがある。夜と朝との対比と比喩はからずしても平時とはいえないこの数年をあらわすかにもみえる。ほとんどの楽曲の作詞にかかわった今井によれば、歌詞は響きを優先したものであり、批評的な側面は意図していない。とはいえそこには社会と文明への警句は随所に読みとれる。そしてそこには事実と虚構、平時と戦時、人工と自然といった典型的な二項対立にもはや回収できず、複雑にいりくんだまま漂う今日的な命題の反映もある。たとえばこのところ話題の生成AIについても、それがもたらす未来は想像とはちょっと違うんだろうなという気がしていると砂原はいう。

 「あからさまなディストピアもユートピアもなさそうな気がするんですね。たとえばいま、こういう曲がほしいということでAIにつくらせたとしても、そうじゃないよ、と思う気がするんです。なぜなら世の中の需要、ニーズが多いものからそういうことに対応していくので、私のほしいものと世の中のニーズはぜんぜん合致していない。その状態のまま寿命まで逃げきろうかと(笑)」

 ユーモアにくるんではいるが、アートの存在意義を剔出する発言ではないか。

 


TESTSET(砂原良徳×LEO今井×白根賢一×永井聖一)
FUJI ROCK FESTIVAL ‘21にMETAFIVEの特別編成として出演した砂原良徳とLEO今井が、GREAT3の白根賢一(ドラムス)と相対性理論の永井聖一(ギター)を迎え、グループ名を新たにTESTSET(テストセット)と冠してライブ活動を開始。2022年に1st EP『EP1 TSTST』リリースし、SONIC MANIA、朝霧JAMなどに出演。2023年7月12日にファーストアルバム『1STST』をリリースする。

 


寄稿者プロフィール
松村正人(まつむら・まさと)

1972年奄美生まれ。編集者、批評家。合同会社JOURNAL副代表。著書に「前衛音楽入門」。編著に「捧げる 灰野敬二の世界」「山口冨士夫 天国のひまつぶし」、共編著に「青山真治アンフィニッシュドワークス」(河出書房新社)など。https://www.journal.cx/

 


LIVE INFORMATION
TESTSET LIQUIDROOM 19th ANNIVERSARY

2023年7月13日(木)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
開場/開演:19:00/20:00
前売:7,000円(税込/ドリンクオーダー別)
e+:https://eplus.jp/sf/detail/3848310001-P0030001
LAWSON Lコード:75736 https://l-tike.com/order/?gLcode=75736
チケットぴあ Pコード:241-804 https://w.pia.jp/t/testset/
*1人4枚まで

主催:LIQUIDROOM
企画制作:LIQUIDROOM

FUJI ROCK FESTIVAL ’23
2023年7月28日(金)~2023年7月30日(日)

https://lit.link/TESTSET