
中塚武はクインシー・ジョーンズとディズニーや!
――当時のお2人は海外レーベルから作品を出していましたし、海外の音楽シーンの流行をオンタイムで取り入れつつ、同時にポップでもあるというイメージを持っている方も多かったんじゃないかと思います。
中塚「そもそもヒロシは、実際に海外に住んでいたもんね」
ナカムラ「そう。ロンドンに住んでいたときにi-depをはじめたら、ビザが切れて日本に帰ろうかという前日にイタリアのイルマ・レコーズから〈契約したい〉と連絡をもらって」
中塚「かっこいいなぁ」
ナカムラ「一見よく聞こえるかもしれないけど、〈やったぜ、夢のイルマ・レコーズや!〉と思っていたら、そこから3~4ヶ月経っても次の連絡がなくて、しびれを切らしてこっちから直接言いにいったんだから。そう聞くとかなり泥臭いでしょ(笑)」
中塚「イルマ・レコーズからミックスCD『ITALIAN JOB mixed & cooked by i-dep』(2006年)が出たとき、めちゃくちゃ聴きましたよ、僕は」
ナカムラ「逆に僕はこの間、〈曲ができない〉と思ってNetflixを観ていたときに気づいたんですけど、〈中塚くんの音楽ってクインシー・ジョーンズだな〉って思うんですよ。クインシー・ジョーンズが今もバリバリ元気でコンピューターをいじっていたら、たぶんこうなっていたんじゃないかな、と。
あとやっぱり、曲に(公式アレンジアルバムを担当している)ディズニー/ディズニーランド感があると思いました。技術的なことはさておき、人を高揚させる曲という意味で、転調やコーラスひとつとっても、音楽にパワーがあるというか。そういうことが浮かびますね。〈中塚武はクインシー・ジョーンズとディズニーや!〉って」
中塚「(笑)。そう言ってもらえるのはすごく嬉しい。僕はゲーム会社のナムコにいたこともあって、もともとそういうリアルな人生じゃない要素に魅力を感じるところがあるんです。
他の人の音楽を聴くときも、別世界に行くような感覚で聴いていて。世知辛い世の中だし、落ち込むこともいっぱいあるだろうけれど、音楽を聴いているその何秒~何分間だけは色んなことを忘れられるというような、そういうところがいいな、と思っているんですよね」
――お互いの音楽を聴いて刺激を受けることはありますか?
ナカムラ「今回、僕は中塚くんのシングル『Dreaming of the Future』に収録されている田中知之さんによるリミックス“Dreaming of the Future (FPM Crystal Version)”に共同作業者として参加したので、中塚くんの音楽をじっくり分析する時間があったんですけど、改めて聴き込んでみると、〈もう何も手を加えなくていいんじゃないか〉と思うくらい楽曲が本当によくできていて。この人は本当に努力している人なんだな、と思いました。
僕らは東京オリンピックのときにも、開会式の音楽を田中知之さんと一緒につくる機会がありましたけど、音楽をやっている同世代としては、DJもやっているけれど、かといってザ・DJということでもない、中塚くんの在り方にはすごく共感できる部分があります」
――様々なジャンルに精通したサウンドプロデューサーであると同時に、シンガーソングライターとしての魅力も追求されたりしていますよね。
ナカムラ「そうそう。そういう表現者としての中塚武にすごくシンパシーを覚えますね。……昼間からお酒なしで中塚武を褒めるのもどうかと思いますけど」
中塚「(笑)。でも、僕自身はそれほど考えてやってるわけでもないんです。これまでの活動の中で、〈あのときにやったあれが、ここで生かせるかもしれない〉という、知らないうちに積み重なってきた経験があって、それが自然に出るようになったんだと思います」
20年の積み重ねを武器に新しいものをつくる
――実際、今回のアルバム『PARADE』を聴かせていただいても、エレクトロニックミュージックやジャズ、ヒップホップ、英語詞/日本語詞のメロディ、そして自らボーカルを取って歌うよりシンガーソングライター的な側面など、中塚さんがこれまでキャリアを通して追求されてきた様々な要素が、全編を通して自然に混ざっているように感じました。
中塚「何年か前までは考えないとそうはできなかったんですけど、20年やっていると、キャラが勝手に走り出すみたいに、それが自然に出てくるようになる瞬間があるんですよ」
ナカムラ「20年経つと、普通は〈一度自分の音楽を客観的に見てみるか〉ということをしがちだと思うんですけど、中塚くんはその距離感が上手いのかもしれないよね。
あと、中塚くんは全部自分でやることも多いけれど、ひとりでやっているものではないように聞こえる瞬間がある。作家としてのスイッチ、アレンジャーとしてのスイッチ、レコーディングの際のディレクションのスイッチというように、きっと頭の中に〈色んな中塚武〉がいて、場面ごとに使い分けてるんじゃないかという気がします」
中塚「影武者みたいに自分が何人かいる……?」
ナカムラ「中にはひとりぐらいまだ誰も知らん中塚武がいるかもしれないし、同時に焼肉屋で飲んだ後、黙ってタクシーに乗って帰っていく中塚武もいる(笑)」
中塚「ははははは」
――中塚さん自身は、役割ごとの切り替えのようなものは意識しているんですか?
中塚「演奏しているときや歌を歌っているときって、作曲とは違って実際に体をつくらなきゃいけないので、そういう物理的なモードの切り替えは意識します。
ただ、アレンジに関しては、さっきも少し話したように、その切り替えが自然にできるようになったんだと思います。ヒロシもそうだと思いますけど、〈まだ聴いたことがない音楽をつくる〉〈次のポップをつくる〉ということをモチベーションに活動していく中で、〈どれだけ自分の積み重ねが上手く絡み合っているか〉ということは、僕はすごく重要だと思っていて。
音楽って若い子でもすごくオーセンティックなものが好きな人もいれば、おじいちゃんになっても尖ったものが好きな人もいて、世代やつくった人の背景って聴く人にはあまり関係ないと思いますけど、つくる側は自分の積み重ねの上で音楽をつくっているわけだから、20年やってきた僕らが今新しいものをつくるなら、これまでの積み重ねがすごく武器になるんじゃないかな、と。今回アルバムをつくる上では、そういうことをすごく考えていました。
それもあって、今回は若い頃のように音をこねくり回して新しい音楽として聴かせるというよりも、自分から出てきたアイディアを、そのまま出すことを大事にしていきました」
ナカムラ「ああ、分かる。僕も最近、同じことを考えてるなぁ。今回の『PARADE』にも、確かにそういう魅力を感じました」