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強がりすぎず,受け身すぎず

――ところで、再録アルバムもそうでしたけど、歌唱について意識的に変えている部分はありますか? “さすらひ”ぐらいから歌い方のトーンが柔らかくなって自然でいいなと思って。

「え~、嬉しいです。いままでは音楽の知識なく歌って踊ってたんで、とりあえず出せる声を出して喉を壊しちゃうみたいなこともけっこうあったんですけど、ボイトレの先生を替えたり、歌の基礎をまず学んで、そこから自分がどんな声色を出したいかっていうのも考えるようになりました。音楽との向き合い方が変わってからは、歌うことに対しての意識も変わりましたね」

――そうなんですね。で、めっちゃピクシーズみたいな疾走感のあるカップリングの“手紙”は作曲も田渕さんです。

「凄いオルタナティヴな、ひさ子さんって感じの曲ですよね。これは3年前ぐらいに作っていただいていて、めっちゃカッコイイ曲だからいつか出したいと思ってずっとストックしてました」

――“日常”(2021年)と同時期にあった曲なんですかね。

「ああ、そうです。最初はサビの歌メロとか、もっとシャウトっぽい感じだったんですけど、私のやりたい音楽の方向性が変わってきたのをひさ子さんもわかっていたので、今回のためにちょっと作り直してくださったりして完成しました」

――歌詞でいうと“飛んでゆけ”と“手紙”で言葉が往復してる感じだし、〈長いまつ毛〉という共通するワードもあって、繋がりを持たせた雰囲気もありますね。

「そうですね。そこはリンクさせたりしていて、こちらはホントに大事な人やファンの方からもらった手紙について書きました。言葉の力って凄いと思ってるんですけど、自分が受け入れようとしてなかったら言葉をもらっても届かなかったりするじゃないですか。でも、自分が人間ってこういうものなんだっていうのを知ってから読む手紙にはホントに救われて。ましてや、人が人のために文字を手で書くのって、書いてる間はその人のことしか思ってなくて。あと、自分のことを書いてくれるファンの方もいて、〈みんなこうやって生活してるんだな〉って理解できたりして、手紙って凄いなって改めて思ったのを書いた曲です」

――はい。そんなシングルのリリースに前後して、4か月にわたるツアー〈後日改めて伺いました〉が始まっています。新体制では初のツアーですね。

「ひさ子さんとゆーまおさんにとってもいまのPEDROは未知だと思いますし、やっぱりバンドってライヴの数を重ねればどんどん気付けることも増えると思うので、いっぱい一緒にライヴできるのがホントに楽しみですね。それと、自分が読書をしたり音楽を聴いたりするときに受け取る感覚が凄く変わったので、そうやって感覚の変わった自分がライヴをどういう意識でできるのか、それは自分でもちょっと怖い部分でもあり、楽しみな部分でもあります」

――もうリハなども重ねられてると思いますが、ゆーまおさんはどんな方ですか?

「いや、もう良い兄さんですよ。ナイスな兄さんって感じ。私は中学生の頃から勝手に一方的なファンなんですけど、やっぱドラムが巧すぎるんでホントに勉強になりますし、一緒にセッションすると〈この人はどこまでも探求心がある方なんだな〉って思います。音楽のこととか私の知らない世界のこととか、いろんな物事に詳しいので話していておもしろい方ですし、単純に優しいっていう。柔軟性もあり、探求心もあり、こういう人だから忙しくてもたくさんのアーティストの方にサポートを頼まれるんだろうなって思いました」

――波長が合う3人という感じですか。

「いや、ホントに。ありがたき幸せな環境ですね。ゆーまおさんも別に〈めっちゃ明るいぜイェイイェイ〉みたいな方ではないので(笑)、私とひさ子さんに通ずる部分がある……って言ったら恐縮ですけど、雰囲気的にそこまでテンション感がズレないというか」

――そんな3人の化学反応も観れるツアーになるということですね。

「そうですね。前はライヴを仕事だと思ってやってたんですけど、バンドとしてゼロからイチを作る表現者として、そんな向き合い方じゃたぶん違うなってようやく気付いたので、もっともっと自分から作り出していかないと、たぶんPEDROとして表現できないなっていう気持ちです。BiSHの時からツアー初日って絶対に思った通りいかなくて、夜に泣いてた記憶ばっかりなので、今回のツアーでは強がりすぎず、だからといって受け身すぎず。この自律神経が整ってる状態の自分が、いままで卑屈になってた部分をもっと柔らかくして、どうやって表現者として音楽と向き合えるかも未知なので、そういう意味でもツアーが楽しみですね」

――11月のツアーファイナルは2度目の日本武道館になりました。前は立つこと自体に意味があった感じではありましたけど、改めて今回はどんな意識でしょうか。

「そうですね。いまの自分でまた武道館に立てるんだって思うと、PEDROの体制的にもそうですけど、また初めての武道館みたいな感覚があるというか。前回は武道館っていう存在が自分の中で異質だったのもありますし、コロナ禍で来られなくなった人も多かったので、〈いまこのご時世で、武道館でどこまでできるか〉みたいなのもあって、正直言えば未知ではありますけど、凄い楽しみです。自分がそこにどう向き合えるかを考えながら、自分がそこでどういう時間を作りたいのかをこのツアーで見つけ出して、満員御礼の武道館をできるように精進したいですね」

 

左から、PEDROの2023年作『後日改めて伺いました』、活動休止までの半年間を追ったドキュメンタリー作品「LOVE FOR PEDRO」、横浜アリーナ公演の模様を収めた映像作品「さすらひ」(共にユニバーサル)

サポート演奏陣の近作を紹介。
左から、NUMBER GIRLのライヴ盤『LIVE ALBUM「NUMBER GIRL 無常の日」』(ユニバーサル)、ヒトリエの2022年作『PHARMACY』(ソニー)