タワーレコード新宿店~渋谷店の洋楽ロック/
つねにリスナー視点を大切にした語り口とユーモラスな発想をもっと多くの人に知ってもらいたい、読んでもらいたい! ということで始まったのが、連載〈パノラマ音楽奇談〉です。第14回は、5月30日に83歳の誕生日を迎える大野雄二について綴ってもらいました。 *Mikiki編集部
我がコレクター魂を騒がせる大野サウンド
5月30日は大野雄二さんの誕生日。日本人ならば誰もが知っている“ルパン三世のテーマ”を始めとする一連の「ルパン三世」シリーズ。映画「犬神家の一族」、「人間の証明」、NHK「小さな旅」などのテーマや劇中曲。さらにCMソングの“きのこの山”や“レディーボーデン”ほか数多くの名曲を生み出した、本邦屈指の作曲家/アレンジャー/ピアニストです。
僕は好きなアーティストの作品を何でもかんでも収集するようなタイプではないのですが、大野雄二の音楽にだけはどうにもコレクター魂が騒ぐのです。もっとも彼の手掛けた楽曲は膨大な数にのぼるので、まだまだ探求の途上ではありますが。
この連載では今後も不定期に大野ワークスを紹介していこうと思うのですが、今回はそのイントロダクションのような形で大野サウンドとの出会いから近年までを振り返る、ほぼ私的エッセイのような内容です。
きっかけは「ルパン三世」……ではなかった
小学校に上がるか上らないかの頃、ルパン三世の劇場映画第1作「ルパン三世 ルパンVS複製人間」(78年)を観に行きました。5、6歳の子供にしてはずいぶんマセていますが、同伴した母親が「東映まんがまつり」か何かと勘違いしたのか、少なくとも自分の意志ではなかったように思います。しかし、このときの体験がその後の我が趣味嗜好に決定的な影響を及ぼすことになるとは、当時の僕はまだ知る由もなかったのです。
こんな書き方をすると早くも大野サウンドやルパンに開眼したのかと思われるかもしれませんが、そうではありません。たしかにエンディングで三波春夫が歌う“ルパン音頭”は楽しい歌だなと思ったし、映画のストーリーも面白かったのですが(ただし幼心にも不二子は信用ならん女だと思った)、じつは僕に強い衝撃と興奮をもたらしたのは、同時上映されたアガサ・クリスティー原作のミステリ映画「ナイル殺人事件」(78年)だったのです。
まぁそれはそれでマセてる気もしますが……。ナイルショックで唐突にミステリの魅力に目覚めた僕は、母親にせがんで子供向けのシャーロック・ホームズ・シリーズを買ってもらったり、図書館でひたすら江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを耽読する根暗な少年になっていきました。