©モンキー・パンチ/2019 映画「ルパン三世」製作委員会

3DCG「ルパン」は「初めて」がいっぱい!

 『ルパン三世(ザ・サード)』なのに「THE FIRST」の副題がつくとは、これいかに。

 そのココロは、お話としてルパンの祖父「ルパン一世」が絡んでくることと同時に、フランチャイズとして3DCGによる長編アニメーション化が初めて試みられていることが大きい。昨今のアニメーション情勢から思えば、なるべくしてなったとの実感もあり、同時に、元来、新しいもの好きであった原作者モンキー・パンチの嗜好も振り返れば、これまた当然の成り行きではあったか。

モンキー・パンチ,山崎貴,大野雄二 『ルパン三世 THE FIRST』 VAP(2020)

 3DCG仕様で目新しいのは、第一にその立体感。細かいところではルパンの着用する赤ジャケット。これが見事に光沢を帯びた表現になっており、すなわち革製であることがシリーズで初めて打ち出されている。数々のアクションをこなすキャラクターゆえ、動きやすく柔らかい素材なのだろうというのが従来の感覚としてよく、たとえば小栗旬が主演した実写版『ルパン三世』では、ベルベット製のそれが縫製されており、ロケ地のタイで初めてそれを目撃した筆者などは、念のため実物をさわらせてもらった記憶がある。3DCGルパンの革ジャケが動きやすくて丈夫なものとなると、やはり素材は羊革あたりか。一方、小栗ルパンはパンツの方が革製だった。

 3DCG技術の面で注目すべきは、アニメーション制作を『キャプテンハーロック SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK』や『ソニック・ザ・ムービー』などで知られるマーザ・アニメーションプラネットが行っていることだろう。『ルパン三世』のアニメ化当初より制作を担当するトムス・エンタテインメントの子会社である同社が、白組という、もうひとつのCG制作会社に所属する山崎貴を監督に迎えて作品を仕上げたというのも、ちょっと興味深い「ザ・ファースト」だったりする。

 かなり実写的な画角、映像処理が試みられている点は、マーザ側の意志か、それとも山崎貴のこだわりの結果なのか。脚本のクレジットが山崎の単独名義になっているあたりは、少なくとも物語については彼の趣味嗜好が大きく反映していると考えていい。

©モンキー・パンチ/2019 映画「ルパン三世」製作委員会

©モンキー・パンチ/2019 映画「ルパン三世」製作委員会

©モンキー・パンチ/2019 映画「ルパン三世」製作委員会

 「莫大な財宝」をめぐる、追いつ追われつのノンストップ活劇。考古学大好き女性をヒロインに据え、古代からのお宝を元ナチスと奪い合うという展開は、どこか『インディ・ジョーンズ』シリーズ風。宝探しの鍵となる「日記」や宝の隠し場所が仕掛けいっぱいなのも同じ傾向。それ以上に、ヒロインをエスコートしながら事件に巻き込まれ、攻防の顛末を見届けるルパンの役割は宮崎駿作品的な冒険活劇の気分であり、ルパンによる「ごくろうさん」のイタズラ書きやフィアット500がモデルとなっているルパンの愛車、さらにルパンと次元大介のプロレス、ルパンと銭形警部の暫定的休戦協定などは、まんま『ルパン三世 カリオストロの城』。飛行石を思わせる物体などは『天空の城ラピュタ』を連想させる。山崎が70~80年代の思春期に心を弾ませた娯楽映画へのオマージュが、『ルパン三世』という作品を借りて凝縮されているといってもいい。これだけダイレクトに山崎の「映画的お宝趣味」が反映されている作品というのも「初」ではないか。

 シリーズゆかりということでは、次元大介の声は小林清志、音楽では大野雄二というベテラン勢の参加が往年のファンには嬉しいところ。ほぼ新曲対応で臨んだ形の大野だが、一部アクション場面においては《サンバ・テンペラード》という名曲を引用している。山崎の要請かもしれないが、これまた『カリオストロの城』ファンには楽しい仕掛けではないだろうか。

 ヴォイスキャスト陣ではシリーズ「初」参加の広瀬すずが圧倒的にヒロイン役で輝いている。声だけの芝居でもこんなに素晴らしいのでは、もはやお手上げである。ヒール役の吉田鋼太郎&藤原竜也コンビも悪くない。

 総じて、これは全くの新しい作品というより、かつての名作の香りをただよわせた誠実なるアレンジ・リブート企画とするべきだろう。作り手の無邪気なまでの趣味趣向、「初物」をそのままどんどん引き受けてしまう『ルパン三世』という器は、本当に大きくて深い。