©Jonas Akerlund

40年前に世界を制したアイドルはいまなお創作意欲を燃やす現役のレジェンドである。妖しい熱狂に突き動かされた豪華な〈ハロウィーン・アルバム〉がリリース!

 「このアルバムは、最近の作品に比べて自然体で制作した。ハロウィーンのライヴで感じたエネルギーが、曲作りやレコーディングのあらゆる過程に波及しているように思えたんだ。それがバンドの初期の頃に自分たちがどんなふうに音楽を作っていたかを思い出させてくれたよ。今回の制作は当時と同じような形――つまり、4人のメンバーがひとつの部屋に集まるというところから始まった」(ロジャー・テイラー、ドラムス)。

 2022年に〈ロックの殿堂〉入りも果たしたデュラン・デュランの現在が日本でどう認識されているかは知らないが、近年の彼らは進行形のヴェテラン・バンドとして野心的に活動を続けている。全英3位を記録した2021年の『Future Past』は海外でもヒットし、同作のツアーは各国でソールドアウト。もはや彼らを語るのに〈40年前に世界を制したバンド〉という形容だけでは不十分なのだ。そんな好況は活動意欲にも作用しているようで、今回のニュー・アルバム『Danse Macabre』は昨年のハロウィーンに行われたライヴの手応えに起因する作品だという。

 「あの晩は素晴らしい体験をした。僕たちはカヴァーを6曲演奏して、観客は次に何が出てくるのかわからなくなっていただろう。すでに世の中にはクリスマスのレコードが山ほどある。そこで僕たちは、〈ハロウィーンを自分たちのものにすればおもしろいんじゃないか?〉って考えた」(ニック・ローズ、キーボード)。

DURAN DURAN 『Danse Macabre』 Tape Modern/BMG(2023)

 スタジオに入った彼らは「アメリカのハロウィーンの時期ならではの熱狂をテーマにした」(ニック)という“Danse Macabre”など3曲のオリジナルを書き、そのうち先行シングル“Black Moonlight”では馴染み深いナイル・ロジャースを招いてもいる。

 「“Black Moonlight”はまさにデュラン・デュランとナイルだからこそできるコラボレーションだ。スタジオで彼がギターを弾きはじめると、そのリフに周りの全員が影響されて、まるで曲がひとりでに出来上がっていくかのようだった」(サイモン・ル・ボン、ヴォーカル)。

 それ以外には7つのカヴァー曲と、過去曲のセルフ・リメイクも3つレコーディング。カヴァー主体の作品だとルーツを探求した『Thank You』(95年)もあったが、シアトリカルなサイモンの歌唱も素晴らしい解釈で聴かせるビリー・アイリッシュ“Bury A Friend”や、カルトSF的な雰囲気がハマったセローン“Supernature”、さらにスージー&ザ・バンシーズやローリング・ストーンズ、スペシャルズといったハロウィーン的(?)な目配せもある選曲はまたユニークな感じだ。自分たちの“Lonely In Your Nightmare”とリック・ジェイムズ“Super Freak”を繋いでみた“Super Lonely Freak”もおもしろいし、何より注目はヴィクトリア・デ・アンジェリス(マネスキン)を招いたトーキング・ヘッズ“Psycho Killer”ということになろう。

 「初めてヴィクに会ったとき、憧れのベーシストが誰なのか訊いたら、彼女が〈ティナ・ウェイマウス!〉と即答したから、〈僕もだよ〉と答えた。“Psycho Killer”をカヴァーするアイデアが出たとき、彼女に連絡しようと思った。もちろん気に入ってくれたよ!」(ジョン・テイラー、ベース)。

 ゲストにまつわるトピックとしては元メンバーの参加もあり、なかでも17年ぶりの共演となるオリジナル・メンバーのアンディ・テイラーが先述の“Black Moonlight”など3曲でギターを弾き、不遇期を支えたウォーレン・ククルロ(ギター)も表題曲など2曲に参加している。ただ、81年の“Night Boat”をリメイクした“Nightboat”をはじめとするリワーク群も含めて、懐古的なニュアンスからの試みというよりは、現在の彼らが獲得した余裕から生じた遊び心やパーティー精神の表れといったほうが近いかもしれない。何にせよ、自信に満ち溢れた佇まいで威風と妖気を放つデュラン・デュランは、いまなおロマンティックである。

左から、11月10日にリリースされるマネスキンの2023年作のデラックス盤『Rush!(Are U Coming?)』(Epic/ソニー)、ナイル・ロジャース&シックの2018年作『It’s About Time』(EMI)、アンディ・テイラーの2023年作『Man’s A Wolf To Man』(BMG)

デュラン・デュランの近作。
左から、2000年作『Pop Trash』(Hollywood)、2004年作『Astronaut』、 2007年作『Red Carpet Massacre』(共にEpic)、2011年作『All You Need Is Now』(Tape Modern)、 2015年作『Paper Gods』(Warner Bros.)、2021年作『Future Past』(BMG)