タワーレコードが現在開催中の〈♡80’sキャンペーン〉。リアルタイム世代から若者たちまでを巻き込んで再評価されている、80年代が生んだ豊かなカルチャーを特集したものだ。この記事では、キャンペーンの一環で制作された、タワレコの選曲による80’s UKヒットのコンピレーションアルバム『BRILLIANT UK - 80’s Edition』を取り上げる。当時のうねりを体験した音楽ライターの新谷洋子が、80’s UKポップとその時代について綴った。 *Mikiki編集部

VARIOUS ARTISTS 『BRILLIANT UK - 80’s Edition(タワーレコード限定)』 TOWER RECORDS UNIVERSAL COLLECTION(2021)

 

暗い時代の英国で生まれた豊潤で多様な音楽

80年代の英国で起きたことと言えば、フォークランド戦争、北アイルランド問題、サッチャー政権の新自由主義政策による失業率の激増、炭鉱ストライキ……と、よその国の話ではあるものの、思い浮かぶのは重い気持ちにさせられる出来事ばかり。そんな背景を鑑みると、あの時代に生まれたポップミュージックの豊潤さや多様性、クリエイティビティーやエキサイトメントは、奇異ですらあるし、逆に、決して明るくなかった時代への抵抗が込められていたと捉えるべきなのかもしれない。

当時の音楽ファンにはその魅力に抗す術はなく、ビートルズやローリング・ストーンズが主導した60年代の第一次に続く、第二次ブリティッシュ・インヴェイジョンが起きた。一般的には英国人アーティストたちのアメリカ進出を指すタームだが、日本での状況も同様どころか、わが国先行で成功したケースも多々あり、本作『BRILLIANT UK - 80’s Edition』はまさに世界を侵食し制覇した80年代の英国産のヒットシングルを網羅的にショウケースし、シーンの傾向を総括している。

 

ABCにデュラン・デュラン、新世代が奏でた〈ニューポップ〉

中でも多数選ばれているのは、冒頭を飾るABCの稀代の名曲“The Look Of Love (Pt. 1)”(82年)以下、〈ニューポップ〉と総称されるポストパンク世代のバンドのヒット曲だ。

『BRILLIANT UK - 80’s Edition』収録曲ABC“The Look Of Love (Pt. 1)”

グラムロックに啓示を受け、パンクムーブメントのDIY主義を受け継ぎ、テクノロジーの進化に背中を押され、クラウトロックからディスコ、西欧圏外の音楽に至るまで幅広い音楽に刺激を受けた彼らは、ビジュアルコンシャスで、冒険性とポピュラーであろうとする野心を併せ持ち、81年のMTV開局の追い風を受けて続々ブレイク。

シンセによる表現を掘り下げたオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークやシンプル・マインズから、ブラックミュージックの影響を色濃く反映させたデュラン・デュランやトンプソン・ツインズ、独自の美意識に則って耽美性を強めたジャパンに至るまで多種多様だったのみならず、変化を恐れない柔軟さも聴き手を惹きつけた。

例えばデビュー当初は電子音に徹していたヒューマン・リーグだが、本作に収録された“Human”(86年)ではジャム&ルイスとコラボしてR&Bに接近。ティアーズ・フォー・フィアーズもシンセポップからサイケデリックロックに移行し、“Everybody Wants To Rule The World”(85年)はその間の過渡的な1曲だった。 

『BRILLIANT UK - 80’s Edition』収録曲ヒューマン・リーグ“Human”

またジェンダーに関してもオープンマインドで、カルチャー・クラブのボーイ・ジョージを筆頭に既存の男らしさ・女らしさの型を拒絶する〈ジェンダーベンダー〉たちが闊歩し、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドは、ゲイセックス賛歌“Relax”(83年)で物議を醸しつつも各地のチャートを席巻。90年代以降よりも逆にリベラルだった側面がある。

『BRILLIANT UK - 80’s Edition』収録曲フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド“Relax”