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JTNCのコンセプト

――最初にこの本(JTNC1)を作ろうってなったときのコンセプトや狙い、編集方針はどういうものだったんでしょうか?

小熊「最初はぼんやり〈今のジャズをやろう〉ぐらいにしか考えてなくて。そのときは、今のジャズの動きがどういうものかっていうのを本当によくわかってなかったので。ただ、とりあえず昔のジャズを扱っている本はいっぱいあるけど、今のジャズをメインに扱っている本っていうのはないってのは明らかだったので、それがひとつの売りになるんじゃないかっていう読みはありましたね。社内的な後押しもありましたし。最初にやったジャズ特集の段階で結構お店の反応も良かったみたいなので、ニーズがあるんじゃないかということは感じてました」

柳樂「あと僕が別の雑誌などで取材をしたときのインタヴューも結構溜まってて、これだけアーティストの発言があればいいものが作れそうだなっていうのもあったんで、それも含めてっていう感じですね」

――そのあと、企画や構成は基本的にお二人のディスカッションで詰めていくという感じだったのでしょうか?

柳樂「そうですね。僕は大まかな設計図と、こういうのをやりたいっていうのと、〈今これが新しい〉とかを投げて、詳細は全部詰めてもらうっていう感じで。それで、小熊が見てわからない企画や文章は基本的にナシっていう(笑)」

――決してジャズが得意ジャンルではなかった、若い編集者である小熊さんがわからなかったらナシ、っていうところがJTNCのポイントというか、面白い特長だと思うんですよ。柳樂さんはジャズのスペシャリストですけど、そのときの小熊さんの認識としては、ロバート・グラスパーはわかってるぞ、と

小熊「まあ……その時点では『Black Radio』しか聴いてなかったんで、作る段階では正直ロバート・グラスパーもそんなにわかってたのかなっていうのもあります。他も知らない人ばっかりなんで、顔と名前が一致するまで時間がかかった部分はありました。それまでそんなに身近にジャズに接したことがなかったから、ホントに初めてに近いような形で。本を作ろうってなったときに、〈事前に勉強しておく必要があるな〉って思ったんですけど、事前に勉強するもなにも(笑)、参考になるものがあまりないんですよ。もちろんアーティストの名前で検索したりすれば、いろいろと情報は出てくるのかもしれないですけど、体系立った情報がこの本の前の時点では存在していないな、と。でも逆に、それに気付いたときに〈この本はいけるな〉っていうのはちょっと思いました」

柳樂「小熊が良かったのは、(この本に登場する)グラスパーやブラッド・メルドーなんかが自分の作品でカヴァーしている他ジャンルの音楽に関しては、基本的に全部知ってるっていうところですね。逆にそういう人のほうがいないんですよ。だから、アーティストの説明で他のジャンルの人の名前を出せばだいたい理解してもらえて、むしろ〈そういう人たちからの影響だったらこういうのもあるんじゃない?〉っていう、別の角度からのアイデアをもらえたのは結構デカくて。それで、(本の内容が)かなり拡がった気がしますね」

ブラッド・メルドー・トリオによるレディオヘッドのカヴァー曲“Exit Music (For A Film)”パフォーマンス映像

――ここ1年間ぐらいのジャズの最前線にフォーカスを当てた最新刊のJTNC2を読んでから、2000年以降の新たなジャズの動きをまとめたJTNC1を改めて読み返してみると、同じ編集者としての視点で見ても、隅々までしっかりまとめて、よく編集された本だなあっていう印象がありました。10年間のさまざまな動きがギュッと1冊にまとめられているな、と改めて驚いたというか

小熊「柳樂さんの中に本のヴィジョンは最初からあったけど、ただそれをどう配置するかってのがすごく大事だなと思いましたね。ページの順番とかはすごく意識して並べたかな。作ってて、この本が一番いけるなって思ったのは、ケニー・ギャレットのインタヴューですね。インタヴューしてるときは〈これなんでやってるんだろう?〉ってイマイチわかってなくて。そこから記事が揃っていくうちに、若手を積極的に起用してきた大ヴェテランであるギャレットの発言がどんどん重みを増していくんですよ。〈(この本が)単に新しいことだけをやろうとしてるんじゃないんだな〉ってことが、やっとそのときにわかったというか。〈昔と今のジャズを繋ごうとしてるけど、ちゃんと昔からやる必要はない〉っていうのがこの本のやり方だと思うんですけど、それを一番示してるのが彼のインタヴューだったんじゃないかな」

柳樂「(昔と今のジャズの)断絶みたいなことはずっと言われてたんで、リスナーもだし多分プレイヤー的にも。グラスパーみたいなのが急に売れたっていうのもあって。でも、実は意外とそうでもない(断絶していない)っていうのは、きちんと見てる人にはずっとわかってたんで。それをどう表現するのかは当事者に語ってもらおう、っていう感じで」

ケニー・ギャレットとクリス・デイヴによる99年のパフォーマンス。クリス・デイヴは後にロバート・グラスパーのグループでも重要な役割を果たす