2023年も終わりが近づき、音楽メディアやリスナーによる年間ベストが多数発表されています。今回は、2022年と同様、Mikikiの邦楽関連の記事に執筆などで携わってもらった音楽ライターのみなさんへ依頼して、TOWER RECORDS MUSICのプレイリスト〈マイベスト邦楽ソング2023〉を選曲してもらいました。プロ目線も個人的な感覚も反映された、それぞれ異なる視点から捉えた〈2023年の邦楽〉が見えてくると思います。
ご協力いただいたのは、和田信一郎(s.h.i.)さん、蜂須賀ちなみさん、天野史彬さん、長谷川誠さん、照沼健太さん、松永良平さん、小池直也さん、柴崎祐二さん、坂井彩花さん、原田和典さん、月の人さん、桑原シローさん、金子厚武さん、最込舜一さん、アボかどさん、Z11さんの16名です(掲載は順不同)。
哀悼、微睡、躍動
selected by 和田信一郎(s.h.i.)
https://music.tower.jp/playlist/detail/2000150211
素晴らしい音楽家が何人も亡くなった悲しみと、素晴らしい音楽が今まで以上に生まれ続ける楽しさ、それらがないまぜになって引き裂かれつつ落ち着くような一年でした。プレイリストの曲順構成はそうした気分を反映するものになっています。凄い音源やライブがあまりにも多すぎるために、それら全てを把握できている人はどこにもいない(ストリーミングサービスのおかげでそうしたことを誰もが実感できてしまう)から、紹介される機会や紹介のうまさが各作品の注目度に直結する、という傾向がいっそう増してきている気がします。そうした意味で、様々な分野の紹介が一堂に会するこうした企画はとてもありがたいものだと思います。
灯火
selected by 蜂須賀ちなみ
https://music.tower.jp/playlist/detail/2000150210
今年は年間ベスト系のお仕事を全てお断りするつもりでいました。春に父が死去し、新譜を追えども自分の心に入ってこない時期が長くあったからです。しかし時間が経ち、ふとした瞬間に空虚に包まれることもある日々の中で、心の拠り所になってくれたのもまた音楽でした。ならば、そういう曲を紹介するのもいいのでは、と思いながら作成したプレイリストです。同時に、いちライターとしての主張も込めています。例えばCreepy Nuts、Omoinotakeは〈J-POPのフィールドでジャージードリルを〉という取り組みを評価していますし、TOMOOが素晴らしいソングライターであることはもっと世に知られるべきだと思います。
2023年、混乱と愛の旅
selected by 天野史彬
https://music.tower.jp/playlist/detail/2000150209
写真は下北沢のZACという喫茶店のコーヒーです。先日閉店してしまいましたが、サンドイッチやケーキも美味しく、お茶をするマダムとこれからライブを観に行くそわそわしたキッズたちが同居しているような空間も心地よくて、大好きな場所でした。選曲はシンプルに、2023年の自分に並走し、癒しや勇気や考えるきっかけを与えてくれた楽曲たちを選びました。特に髭(HiGE)は、新作『XX』の素晴らしさはもちろん、その歴史、特に自主レーベルでの活動を開始した『ねむらない』(2015年)以降の彼らのディスコグラフィに改めて触れ、その誠実な音楽探求の道のりに遥かな気持ちになると同時に、とても力強いものを与えてもらいました。
Songs In The Sky
selected by 長谷川 誠
https://music.tower.jp/playlist/detail/2000150208
戦火・パンデミック余波・自然災害・貧困・差別など困難の多い時代だが、志の高い音楽が数多く生まれた年だった。音楽家の訃報が相次ぎ、〈音楽を共有すること〉のかけがえのなさを痛感。個人的には空を見上げることの多い年でもあった。プレイリストは〈空が見えてくる歌〉というテーマで作成。空とは壁がなく、刻一刻変化し、常にそこにあるものである。空と音楽はどこか似ている。トレンド・ジャンル・キャリア・再生回数などを意識せず、純粋に〈いい歌〉を選んだ。共有を阻むのは、先入観や偏見や枠組みであることが多いからだ。カバー曲も選出。カバーもプレイリストも、共有領域の拡張の有効な手段だろう。曲順は朝から夜への時間の流れ。