ジャズピアニストでありメタラーとしても知られる西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第58回は、西山さんが執筆で参加したele-king booksの新刊「現代メタルガイドブック」の刊行を記念したものです。〈現代メタル〉に入門するための格好の教材と言っていい同書は、非メタルを含む広範な視野でメタルという音楽を捉えています。そこで、西山さんがジャズとメタルを接続する重要なピアノトリオとその作品を紹介してくれました。 *Mikiki編集部

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11月29日に、ヘヴィメタルとそれを取り巻く約930枚の作品を紹介する書籍、「現代メタルガイドブック」が刊行されました。私も執筆者の一人として参加しており、50枚弱のディスクレビューを書きました。

和田信一郎 『現代メタルガイドブック』 ele-king books(2022)

これまでも、何度となく出版されているディスクガイド本。
私もメタルに興味を持ち始めた時、また、ジャズに興味を持ち始めた時に、非常にお世話になりました。

〈何度作っても、掲載される名盤は一緒じゃないの〉。
ある面でそれは間違ってはいないのですが、時代が進むと、書く人も読む人も、少しずつ新陳代謝しています。
書き手が新しい世代になったり、以前は見過ごされてきたけれど、後のジャンル発展に伴い見直されるべき重要バンド・作品が増えたり、現代のリスナーに紹介したい新たな切り口を発見したりなど、時代とともに語り直されたものを読むのは非常に面白い。

今回は、ヘヴィメタルと影響し合う他ジャンルの作品も数多く掲載されていること、女性の書き手が多いことが、現代のディスクガイドとして特徴的ではないかと、私も執筆者の一人としてこの本の制作に関われたことを、とても光栄に思っています。

 

自分がジャズピアノのレッスンをする中で時々感じていることですが、近年ジャズの学習を始めた人、意欲的に沢山聴いている人は、YouTubeやサブスクで気に入ったものとその周辺は本当によく聴いているのですが、横軸よりも縦軸(歴史)に辿り着きにくいらしく、名前ぐらい聞いたことはあるだろうと思うレジェンドや作品も、全く知らないことが結構あります。この辺りに、ネットで情報を摂取する限界があるのかなと感じると同時に、目次や重要項を一覧で見ることができる本の形がやはり重要なのでは、とも感じています。書籍だと、読み飛ばしたとしても名前ぐらいは目に入るし、それがどういうカテゴリに属するのかも、知らないうちに学んでしまっているところがありますね。インターネットは、すぐ探し出せるけれど、余分なものが目に入り難い。
そんなわけで、書籍でディスクガイドを出すということは、今だからこそ大きな意味があると考えています。

 

さて、メタルと影響し合う他ジャンルの音楽も多く掲載され、非常に裾野を広くして取り上げられている「現代メタルガイドブック」ですが、掲載盤にはジャズフュージョン系も多いです。

私が書いたものでは、ブラッド・メルドー『Jacob’s Ladder』(2022年)キャメロン・グレイヴス『Planetary Prince』(2017年)など、最近発表のものも掲載されていますが、今回のこの〈鋼鉄のジャズ女〉では、本には掲載されていないけれど、ジャズピアノトリオファンとして、またミュージシャンとして、私がジャズとロックやメタルのサウンドの接続として重要と認識しているバンドと作品を紹介します。

※ジャズにおいてのピアノトリオは、ピアノ、コントラバス、ドラムスの編成。クラシックでもピアノトリオと呼ぶ編成があり、それとは違います

私も含め、後のジャズミュージシャンに多大な影響を与えた2000年代初頭のバンド2つ、アメリカのバッド・プラス(イーサン・アイヴァーソン=ピアノ、リード・アンダーソン=ダブルベース、デヴィッド・キング=ドラムス)、スウェーデンのE.S.T.(エスビョルン・スヴェンソン=ピアノ、ダン・ベルグルンド=ベース、マグヌス・オストロム=ドラムス)です。