音楽を聴くのが、いまは楽しい
yamaはデビュー当初から〈景色が浮かぶような曲に惹かれる〉と話していた。透明で伸びやかな歌声と軽やかな2ステップのビートが、雪が舞い散る繊細な情景をヴィヴィッドに描き出す“沫雪”は、まさにそうしたyamaのヴィジョンにピタリとハマる楽曲だ。さらに、宮田‘レフティ’亮と共作したクールさのなかに熱情を宿すポスト・ロック的なサウンドに、フィクション性のある歌詞が乗った“ストロボ”も印象的だ。
「“ストロボ”は抽象的な歌詞なんですが、自分の育ての親のような親族のことを書いたんです。その人の体調が悪くなってしまい、その人が生きているうちに曲を完成させ、ステージで歌い、亡くなったあとも歌い続けられる曲をめざした。〈ライヴで歌っている眩い瞬間を楽曲に閉じ込めて、時間が経って“ストロボ”を聴いても眩い情景や音を思い出せるように〉という願いを込めた曲です」。
当初、アルバムは“ストロボ”で終わる予定だった。しかし、急遽〈あなた〉に送るバラード“陽だまり”が制作され、本編最終曲として追加された。
「その人がいよいよ危篤状態になってしまって、忙しいスケジュールの合間を縫って会いに行ったんですけど、〈死期が近いってこういうことなんだ〉という状態を目の当たりにし、死生観が大きく変わったんですよね。東京に帰ったとき、〈今の気持ちを曲にしないと後悔する〉という初めての感覚に襲われて、そこから2日間ぐらいで泣きながら、“陽だまり”の歌詞を書きました。それまではアーティストとしてのyamaのイメージを崩さない、いろいろな角度から捉えられる抽象度の高い曲作りを意識していましたが、“陽だまり”はものすごくパーソナルな内容でもいいから、気持ちを曲として残したいと思った。だから、100%裸の曲ですね。自分にそういう行動力があることにも驚きました」。
アーティストとして大きく躍進したサード・アルバムを完成させ、yamaは次のフェイズに向かう。
「『awake&build』で、この3年間に自分がたくさんの物を得て、音楽表現の振り幅がすごく広がったということをお見せできると思うんです。〈その自分が次に何ができるのか?〉を考えたときに、皆さんに知ってもらったきっかけは、YouTubeでの〈歌ってみた〉なので、インターネット・カルチャーをやっぱり大事にしていかなきゃいけないということに気付いたんです。そのうえでyamaなりのポップスを追究していきたいと考えています」。
明確に新たなヴィジョンが生まれたことで、リスナーとしての音楽の向き合い方にも変化が訪れたという。
「音楽を仕事にする前は日常的にたくさん音楽を聴いていたのに、〈“春を告げる”を超える曲を作る〉ということが目標になってからは、それを意識しすぎるがあまり、他のアーティストの楽曲を聴くのがしんどかったんです。でも、『awake&build』を作ったことで次のヴィジョンが見えて少し安心できたところがあって、最近また楽しんで音楽を聴けるようになってきました。積極的に新しい音楽に触れているし、あらためてボカロをよく聴いています。例えば、HiraYuさんの“あなたしか書けない”というすごくサウンドがおもしろくてクールな曲や、R4さんの“ǢǪ feat. 初音ミク, 歌愛ユキ”とか、ボカロ特有の、〈え、そこでその展開する?〉という尖った攻め方をしている楽曲を聴くと、すごく刺激を受けますね」。
yamaの作品を紹介。
左から、2021年作『the meaning of life』、2022年作『Versus the night』(共にソニー)
yamaの参加作品を一部紹介。
左から、くじらの2022年作『生活を愛せるようになるまで』、MAISONdesの2023年作『ノイジールーム』(共にソニー)、 ジェニーハイの2023年作『ジェニークラシック』(ワーナー)