原点回帰だけでは終わらない
ともあれ、アイリッシュ風のイントロとブギのリズムを持つパンク・ロック・ナンバー“The American Dream Is Killing Me”から始まる『Saviors』は、すでに書いた通り、『Father Of All Motherfuckers』のガレージ~グラム・サウンドから原点回帰したパンク・ロック作品として、多くのリスナーから大いに歓迎されることだろう。
バンドのフロントマンであるビリー・ジョー・アームストロング(ヴォーカル/ギター)が愛してやまないジェネレーションXを連想させる2曲目の“Look Ma, No Brains!”をはじめ、“1981”“Strange Days Are Here To Stay”“Living In The ’20s”といったアップテンポのパンク・ナンバーはまさに鉄板と言える。しかし、それだけで終わらないのがグリーン・デイだ。例えば、“Wake Me Up When September Ends”といったバラードにも定評がある彼らだが、原点回帰のパンク・ロックを装いながら、『Saviors』にはピアノとストリングスを使ったビートルズ風の“Father To A Son”をはじめ、バラードが計4曲収録されている。かつてビリーが経営していたインディー・レーベル、アデラインの名前を曲名に使った“Goodnight Adeline”は、タイトルや〈Goodnight Adeline / You’re going to say goodbye and let it go〉という歌詞に込めた思いが気になるところだが、ここでは“Suzie Chapstick”をオススメしておきたい。なぜなら60s調とも、UKロック風とも言える同曲は、そのあまりにも切ないメロディーが、ここに来てビリーのメロディーメイキングがさらに一皮剥けたことを思わせる珠玉の一曲だからだ。グリーン・デイの中では異色に分類されそうな曲だから、ライヴで披露されることはそんなにないと思うが、隠れた人気曲になっていきそうな予感!
そういう聴きどころは他にもある。例えば“Bobby Sox”と“Dilemma”には前述した〈Hella Mega Tour〉の最中にウィーザーとグリーン・デイの間に何らかのクリエイティヴな交歓があったんじゃないかと想像を膨らませずにいられないし、“One Eyed Bastard”と“Corvette Summer”は、パンク・ロックのマナーとは一味違うリフ作りの妙が楽しい。
そして、“Coma City”は“Look Ma, No Brains!”と同タイプのパンク・ロック・ナンバーながら、空間系およびモジュレーション系のエフェクトを掛けたニューウェイヴ風の煌めきを感じさせるギター・サウンドで差を付け、救世主の訪れを希求する表題曲は、ぐっと抑えた表現に貫禄を滲ませる。もちろん、そんな聴きどころが際立つのは、言うまでもなく直球のパンク・ロック・ナンバーがアルバムを貫き、作品全体の印象を伝えているからなのだが、その迫力はせっかくならライヴで体感してみたい。
『Father Of All Motherfuckers』の時はパンデミックのせいで、来日公演は(延期を経て)結局のところ中止になってしまったが、今回こそはぜひ実現を願わずにいられない。バンドはすでに9月まで続く欧州~北米ツアーの予定を発表しているが、さあ、その後は!? パンデミックのさなかから今回のリリースをめざして精力的に活動を続けてきたグリーン・デイの勢いはもう止まらない。いや、それどころかここからさらに加速していくんじゃないかと大いに期待している。
左から、グリーン・デイの2004年作『American Idiot』、ベスト盤『Greatest Hits: God’s Favorite Band』(共にReprise)