This Magic Moment
ヒップホップが50歳を迎えたとき、彼もまた50歳になった。リリシストとしての絶対的な評価に甘んじることなく、ヒット・ボーイとのタッグで意欲的にアルバムを重ねてきた近年のナズ。フィジカル化のタイミングでその最終章を改めて堪能しよう!

 自身の主宰するマス・アピールが〈ヒップホップ50周年〉の催しで核となる動きを見せた一方、ナズ本人はシンプルに作品を重ねることで、みずからがその歴史の一部であることの気概を示してきたように思う。特に2020年に『King’s Disease』を発表して以降は旺盛にアルバムを連発し、『King’s Disease II』(2021年)、『King’s Disease III』(2022年)という3部作としてコンスタントに発表しつつ、並行して2021年には『Magic』という別の連作もスタートした。それらはいずれもヒット・ボーイによる(ほぼ)ワン・プロデューサー作品となっていて、よほどウマが合ったのか、『King’s Disease III』にて自分たちコンビを“Michael & Quincy”と形容するほどの音楽的な相性の良さがこれらのコラボレーションを長く、実りあるものに至らしめたということなのだろうか。今回は『Magic』の第2~3弾がここにきてやっとフィジカルで揃うことになったので紹介しておきたい。

NAS 『Magic 2』 Mass Appeal/RED NOW(2023)

 まず2023年7月に届いたのが『Magic 2』。ここでは同じクイーンズ出身ながらもかつては緊張関係にあった50セントとのコラボ“Office Hours”が話題になった。ゲストという意味では21サヴェージと手合わせして配信されていた“One Mic, One Gun”もボーナス収録されている。本人いわく〈90年代のレコーディングのエネルギーを新しい時代に取り入れた〉とのことで、全体的に簡素な作りは変わらずながら、ストレートにビートに向き合ったナズのもっとも根本的な表現が確認できるという意味で、やはりかっこいいと言うほかない。本編ラストの“Pistols On Your Album Cover”でKRS・ワンの“Hip Hop Vs. Rap”がサンプリングされているのも印象的だ。

NAS 『Magic 3』 Mass Appeal(2023)

 そしてシリーズ最終章となる『Magic 3』は、『Magic 2』からわずか2か月後……ナズにとって50歳の誕生日となる9月14日にリリースされた。こちらも唯一リル・ウェインが“Never Die”に客演したのみ。ソウル/ファンクの定番ネタも多めに用いたサウンドの調子も相まって、ナズの語り口もひときわソウルフルに響いてくる。そんなアルバムの終盤に日本での体験を描き込んだとされる“Japanese Soul Bar”が含まれているのも興味深いところだ。思えば『King’s Disease』と『Magic』の両シリーズでは思い出語りやノスタルジックな表現が目立っているが、どうやら老いていくという事実に安らぎを感じている彼にとって、決して大袈裟なセレモニー感のないこのような作品がゴールであったとしても、それはまったく不思議なことだとは思わない。