©Tomohiro Akutsu

 去る1月24日、東京ドームにて開催されたビリー・ジョエルの一夜限りの来日公演。その前日に17年ぶりの新曲が2月1日にリリースされることを発表するという、まさに世界がビリーに注目せずにはいられないタイミングで行われた同ライヴは、大成功に終わった。そんな16年ぶりの日本でのパフォーマンスを、音楽ライターの桑原シローがレポートする。 *bounce編集部


 

黄金時代のセットリスト

 思わず椅子から転げ落ちそうになった、ビリー・ジョエルの新曲“Turn The Lights Back On”リリースの知らせ。だって17年ぶりのシングルだぜ。そんな心弾むようなトピックを聞かされた日には、東京ドームへと向かう足取りも思わず軽やかになってしまうというもの。1月24日、待ちに待った〈One Night Only In Japan Billy Joel In Concert 2024〉の日。こちらは16年ぶりの来日公演だ。会場を見渡せば〈彼の音楽はわが人生のサウンドトラックでした〉と顔に書いてある人だらけで、一様に古い友達に会いに来たかのような屈託のない柔らかな笑顔を浮かべている。そういった雰囲気を醸成させちゃうあたり、やっぱビリー・ジョエルだからこそ成せる業だとつくづく感じた次第。

 野球映画の傑作「ナチュラル」のメイン・テーマ(作曲はランディ・ニューマン)が球場全体を感動的に包み込むなか、空気を切り裂くようにして、あの聴き慣れた“My Life”のピアノ・フレーズが颯爽と駆け抜けていく。一瞬にして沸騰する客席の温度。ビリーの調子はどうか? 間奏での「バカヤロー!(←おなじみの日本語フレーズ)」の吠えっぷりから察するに、かなり快調そうだ。パンチの効いた歌いっぷりといい、まさに堂々たる帰還である。続けざまに“Movin’ Out (Anthony’s Song)””The Entertainer”といった街の吟遊詩人という肩書がお似合いだった頃の曲が披露され、ドーム公演らしからぬアットホームな空気が漂い出す。ここで日本人がもっとも愛するビリーズ・チューン“Honesty”が早々と登場。ひときわ大きな歓声が上がったことは言うまでもない。“さくらさくら”の独奏に続いて演奏されたジャジーな人気曲“Zanzibar”にも会場は大喜び(カール・フィッシャーのトランペット・ソロがめちゃアツだった)。とある瞬間、この日のセットリストって、〈ポップス史上最強のベスト・アルバム〉と謳われた『Billy Joel: Greatest Hits』(85年)までの曲ばっかりで構成されているよな、と気付く。いわば黄金時代を象徴する作品にフォーカスしたセレクトとなっていたのだが(83年作『An Innocent Man』以降の曲は2曲しか演っていない)、先輩リスナーたちが皆体験している往年のホール・コンサートに後追いのため参加できていない筆者にとっては、実にありがたい選曲と言える。途中、こういうのが聴きたかったんだろ?という誰かの声がどこからか聞こえてきた気もしたけど、日本公演でしか選ばれないであろう“The Stranger”の実に瑞々しい演奏に触れたりしたら、やっぱり無条件に感謝せずにはいられなくなるのであった。