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ニッキーの暴走、SNS時代のファンダム問題

ニッキーはすぐさま反応し、数日にわたってSNSで口撃を繰り広げた。大柄なミーガンが足を撃たれたことを揶揄するディストラック“Big Foot”もドロップしたが、今のところ不評に終わっている。クオリティ面の評価もあるが、相手の亡くなった母親を侮辱するリリックが〈一線を越えている〉として多くのリスナーから拒否されたのだ。

一方、ニッキーとその過激なファンによる暴走は加速していった。悪口を言ったSNSユーザーへの集団攻撃にとどまらず、ミーガンの母親のお墓の住所を特定して破壊を呼びかける者まであらわれたと伝えられたことで、地元警察での墓地周辺警備が強化されるまでの騒動となっていった。

このSNS騒動こそが“HISS”にチャート1位をもたらした。DV被害者を貶めるようなニッキーの言動に批判が集まった結果、BTSや、テイラー・スウィフト、ビヨンセといったポップスターのファンたちもミーガン支援にまわっていったのだ。元々“Lovin On Me”(2023年)によって米チャート首位についていたジャック・ハーロウのファンダムすら“HISS”の購入を呼びかけたほどである。米国市場では、約3,000万のストリーミング再生に加えて、10万を超えるダウンロード販売数を記録している。

“HISS”および“Big Foot”騒動は、SNS時代のヒップホップの問題を浮き彫りにした。ラップビーフとは流血、つまり物理的な暴力を防ぎ音楽で決着をつけんとする文化だが、今や一部の過激ファンによる集団攻撃を呼び起こす装置になりえている。ニッキー本人にマークされたある未成年TikTokerは、親族を含めて脅迫されたため警察に通報した旨を報告した。

 

勝敗は歴史が決める

かつてジェイ・Zが述べたように、ラップビーフはお金を生み出しながらアーティストの〈最高〉を引き出す芸術形式でもある。少なくとも、高く評価された“HISS”がミーガンのキャリアのハイライトになることは間違いない。事態の過激化がおさまることを祈るばかりだが、結局のところ、ラッパー間の勝敗は、音楽評価を通して歴史が決めるだろう。