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私のために編曲してくださったんですか!?

――あと、既発曲もアルバムバージョンに変わっています。特に“私は猫の目”なんて、まったく別の曲に生まれ変わっています。

「個人的に思っていた〈そうあってくれたらいいのに〉が実現していて、〈私のために編曲してくださったんですか!?〉と思うほどうれしかったです(笑)。歌詞が江戸弁ですし、これを歌謡曲風にアレンジしたらどうなるかしら?と勝手に考えていたら、本当にそうなった!と思って。

昭和の歌番組は、イントロに〈それでは聴いてください〉という曲紹介が入るじゃないですか。あれを椎名さんの曲でやりたいとずっと思っていたので、そのうち台詞を考えて曲紹介を入れる遊びを家で一人でやると思います(笑)。〈それではお聴きください。椎名林檎で、“私は猫の目”〉って。私、そういうことを家で一人で勝手にやっているんですよ。気持ち悪いですよね(笑)」

――ははは……(苦笑)。

「それと今回も各曲に英題がつけられておりますが、歌詞を読み解く上でも、アルバム全体を紐解いていく過程でも重要な要素なので、ぜひとも注目してください。“私は猫の目”の題がシングルとちがうじゃん!と気づきまして」

――シングル版はフランス語で“je suis libre”、アルバムでは“i’m free”となっているんですね。

「英題にすることで、アルバムの中でのシンメトリーが保たれているんです。細かいお仕事までありがてぇ……。

あと“公然の秘密”は石若(駿)さんのドラムで録り直されていますが、手数のものすごい多さにばかり気がいっちゃうように仕組まれているように感じて、まんまと〈石若丸~~!!〉と拳を握ってしまいますね。今作はドラムが石若丸、ベースが鳥越(啓介)さんなので、お二方への愛が止まらないです」

 

希望にあふれた若者たちの未来を損ねてしまわないように

――4月に発表されたシングル “人間として”は、社会批評的な歌詞がけっこうヘビーだと思ったんですよ。

「たまらない曲でした。最近、SNSでは〈うっ……〉となるようなことが多いじゃないですか。弱いものいじめとか、お互いの意見のぶつけあいとか。自分の正義が互いあるからヒートアップして、戦争のように精神を削っていくような出来事が増えてきて。

そういう時代だけど、考え方を変えればどちらも共存していけるかもよ、あなたはどうしますか?という問いかけや提案をなさっていて。今まで椎名さんの曲の歌詞を読んで、〈正しくあろう〉と思わせてもらってきましたけど、〈その正しさは、果たして他人にとっても正しさなのか?〉と、はっとさせられた人は多いんじゃないでしょうか。

それこそ仕事でも、お互いに〈自分が正しい〉と思い込んで衝突する瞬間って、やっぱり大人になるとどうしても出てくるじゃないですか。私もたまにやっちゃうんですけど、それでのちのち反省したり。自分の価値観一辺倒ではいけない、見直さないといけない部分があると椎名さんのおかげで思わせてもらえたので、生きる道筋を得たOTKは勝ちです(笑)」

――ほかに既発曲では、宇多田ヒカルさんとの“浪漫と算盤TYO album ver.”がアルバムの中央に置かれています。

「突出した盛り上がりがない曲構成にあえてされていて、椎名さんと宇多田さんが淡々と言葉を紡がれる様の説得力がすごいですよね。

お祭り騒ぎなアルバムの中で特に歌詞が入ってきやすい曲なので、〈みんな、気持ちを落ち着かせて、一回この曲を聴いてくれ!〉と思います」

――いち労働者として響く歌詞ですよね。

「働くこともそうですし、年を重ねることについての人生観も感じますね。やっぱり人間、大人になると、どうしてもずるくなっていくじゃないですか」

――〈算盤〉の方ばかりを優先しがちだと。

「そういう、ずる賢さを今一度見直させてもらえる曲というか。私もここで働き続ける中で、一回り下の世代の子もスタッフとしてたくさん入ってくる年齢になりました。真面目に一生懸命働いている若い子たちを見ていて、この子たちが損しないように我々も努力しないといけないなと、己のあり方を見直させてもらえる曲です」

――よくわかります。最近Mikikiにも若いスタッフが入ったので、そのピュアさやフレッシュさを横で見ていると、自分がくたびれた中年のように急に感じてしまって(笑)。若い〈浪漫〉を忘れてはいけないなと。

「希望にあふれていて、〈あれもやりたい! これもやりたい!〉と目をキラキラ輝かせている子たちの未来を損ねてしまわないように、と思いますよね。もちろん思いどおりにいくことばかりじゃないし、現実を受け入れないといけない瞬間はあるんですけど、大人の小ずるさがない若者たちがそのまま生きられるにはどうしたらいいかしら?と、この曲には考えさせられます……(鼻を啜る)」

――……泣いてます?

「……いやいや!

椎名さんの音楽は、本当に私の人生のサントラです。私のサントラ、なかなかのボリュームになりそうなので、何枚組にしましょうね?」