インタビュー

tofubeats 『First Album』 Part.1

立ち止まる時間が動き出そうとしてる。神戸から世界へ風が吹き抜け、冷や奴も湯豆腐へと移ろう紅葉の季節、ノンストップな昂揚はいよいよ時代を包む!!

tofubeats 『First Album』 Part.1

何を作っても大丈夫

 エルヴィスでもエヴァでもグラスパーでも何でもいいが、結果的に時代や世代の変わり目を作り出すような存在がいる。実際にそういった区分が妥当かどうかは別として、〈tofubeats以降〉という形容がすんなり伝わるくらい、何かの区切りを象徴するエポックメイカーとして彼の名前も(雑な言い方をすれば)重宝がられているのは確かだろう。とはいえ、〈インターネット世代〉〈シティー・ポップ感〉〈現代カルチャーの申し子〉といった過剰な記号化や世代を背負わされることに対する当人の本音はこうだ。

 「ありがたいですけどカテゴライズされるのはちょっと面倒臭いですよね(笑)。そうなりたくないから音楽やってるのに。まあ、喋るの好きだから喋っちゃうんですけど(笑)、〈インターネット時代の~〉とか言われるけど、Maltine以前からネット・レーベルはいっぱいあったわけですし、自分らの島のことは話せますけど、通ってきてないことは言及できない。僕らの周りがすべてだと勘違いされつつある感じはどうにかしなきゃと思ってますし、ずっと丁寧に自分たちのことをやってきたSugar's Campaignのような人たちまで全部同じ枠に放り込まれるのには〈十把一絡げにしないでほしいな〉みたいに思ってます(笑)」。

 もちろん、その活動を追ってきているリスナーなら、現在の彼が〈出自の目新しさ〉でのみ語られるような季節をとっくに過ぎていることは承知のはずだ。初のフィジカル・アルバムとなる昨年の傑作『lost decade』とリミックス仕事集『University of Remix』を〈卒業制作〉に残してメジャー・デビューしたtofubeats、年男の年の豆腐の日に世に問うニュー・アルバムは『First Album』と題されている。

tofubeats First Album unBORDE(2014)

 そのざっくりしたネーミングの意図は「これまでもいろいろやってるんで仕切り直しっていう意味と、あと去年秋ぐらいから宇多田ヒカルさんの『First Love』を聴きすぎてたことと、あと納期がタイトだったことへの皮肉という3つです(笑)」とのことだが、求められるスピードやタイム感は、当然ながら自主で出した前作の制作時とは比べ物にならなかったそうだ。

 「3倍速ぐらいでやってますね。前作の時は、当時のブログに〈制作期間が3~4か月しかない〉って書いてたんですけど。今回は7月上旬に〆切を知らされて、青天の霹靂ですよね。〈無理です〉って言って結局お盆ぐらいまで伸ばしてもらって、それでも収録曲の半分ぐらいは1か月半ぐらいの間に作ったものです」。

 アルバムに先駆けては、昨年の『Don't Stop The Music』、今年春の『ディスコの神様』というキャッチーなEP2枚も届けられていたわけだが、それらもアルバムの青写真に沿って作っていたものではないという。

 「ただ、基本的に僕のやり方として、『lost decade』もそうだったんですけど、その期間に自分が作ったものの集まりだと考えたら、古い曲さえ入れなければ何を作ってもまとまるはずだと思ってて。『lost decade』の時にコンセプト的なところで悩んでたら、マネージャーに〈何も考えずに作っていったほうがいいから〉って言われて、すごい勉強になったというか、自分にはそっちのほうが合ってるわって気付いたんですね。だから心配はしてなくて、自分で足りてない要素があると思ったら自分でそういう曲を作るやろうし、そこは大丈夫やと思ってました」。

 

 

好きな音楽をどう聴かせるか

 アルバムのイントロ“20140809”は、まさにマスタリング直前だったその日にlyrical schoolを迎えたライヴの模様から録られたもの。「10月に出るアルバムを8月に終わらせてることの意味を感じてほしかった」という気分は伝わるが、その引き替えに本作を彩るのは多様なゲスト陣だ。先行カットにおける森高千里の子神聖かまってちゃん)、藤井隆に加え、配信作『summer dreams』(2012年)で発表していたレイドバック・チューン“poolside”をRIP SLYMEPESとリメイク、初出時は本人が歌っていた“衣替え”も「最初から歌ってもらうつもりで作っていた」というBONNIE PINKを迎えて意匠も衣替えされている。

  「PESさんに関しては、レーベルの担当から“poolside”を入れたらどうかって話になった時にPESさんを提案していただき、クリアランスも取れたので組み直した感じです(杏里の“プライベート Sold out”をサンプリング)。それ以外の方は自分からの希望ですね」。

 新井ひとみ東京女子流)に盟友okadadaという“マジ勉NOW!”トリオで送る“Come On Honey!”は、「中学生の新井さんと高校受験の曲“マジ勉NOW!”をやって、実際に高校に入ってまた一緒にやれるっていうのが、自分たち的には何かいいなあと思いました」と語る軽快な女子男子パーティー・チューン。そのようにここ最近のtofubeatsマナーを裏切らないポップな安定感もビルドアップされている一方、ディプロ率いるマッド・ディセントリズを迎えた“CAND¥¥¥LAND”は、まさかのハイエナジーというかパラパラからドープに減速する展開がおもしろい逸曲だ。

  「HINOIチームからバウアー(&ジャスト・ブレイズ)の“Higher”にバッチリ繋がるんですよ。現場で発見して〈これだ!〉と思ってからずっとパラパラ+トリルはやりたくて、今回念願が叶いました。BBCのRadio1Xtraの前からマッド・ディセントとは何かやろうって話はあったところで、リズが興味を持ってくれて。ただ、EDMとか作ってなさすぎてこういうシンセを持ってなくて、改めて買って作ったっていう思い出もあり(笑)、技術的には一番思い入れがあるすね」。

 そして、好きな音を好きに楽しむ姿がより鮮明に浮かんでくるのは、全18曲の折り返し点にあたる9曲目“Populuxe”(最高!)から立て続けに飛び出すフレッシュなインスト群だ。

 「そうですね、そこはやりたいことをガッチリやったっていうか。“Populuxe”は最初からポリリズムをやるって決めて作って。“zero to eight”は今っぽいハウスが作りたくて、“framed moments”はケイトラナーダみたいなのをやりたくて、“content ID”はPCミュージックみたいな。今っぽいビート総ざらいっていう(笑)」。

 

【参考音源】PCミュージックに所属するザイ・スローターの楽曲“Bronze”

 

 なお、インタヴューの後日にPCミュージックからアップされたザイ・スローター“Bronze”のジャケを見て『First Album』との不思議なリンクを感じてしまったのだが……それはさておき。いわゆる〈流行〉の言ったもん勝ち的なサイクルと自身の一般流通作を並走させる気がないのは明白ながらも、こうした即応性と、それを自己流にプレゼンしてくるリズム・ワークの格好良さは彼ならではのものだろう。

 「〈いま流行ってるものに合わせる〉っていうのとは根本が違うんです。DJでも自分が好きなものを相手にどう聴かせるか、好きになってもらうにはどうするべきかっていうことをずっとがんばってきたし、それがこういうアルバムになってる。そうじゃなかったらパラパラもやってないですからね(笑)。後半を聴いて、ヘンだなと思うか、おもしろいと取ってもらえるか。おもしろいと思ってもらえたらいいなと思います」。

 終盤、TR-505のドラムスとドラマティックな旋律に感情が渦巻く名曲“way to yamate”や先述の“衣替え”などによってリリカルな風情に傾いたアルバムを締め括るのは、イントロと対になったラップ・チューン“20140803”だ。キッパリした歌い口や〈AとBの狭間こぼれ落ちた〉と己を語る率直なリリックも相まって、まるでオープニングのようなエンディング——瑞々しさがループして、また音楽が始まる。

 

 

▼『First Album』に参加したアーティストの関連作を一部紹介

左から、森高千里の2014年作『デビュー25周年企画 森高千里 セルフカバーシリーズ "LOVE" Vol.6』(アップフロントワークス)、神聖かまってちゃんのニュー・アルバム『英雄syndrome』(unBORDE)、藤井隆の2014年のシングル『She is my new town/I just want to hold you』(よしもとアール・アンド・シー)、Shiggy Jr.の2014年作『LISTEN TO THE MUSIC』(mona)、PESの2012年作『素敵なこと』(unBORDE)、BONNIE PINKの2012年作『Chasing Hope』(ワーナー)、東京女子流の2014年作『Killing Me Softly』(avex trax)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

 

 

▼tofubeatsがプロデュース/リミックス/アレンジなどで関わった楽曲を含む作品を一部紹介

左から、tofubeatsのリミックス集『University of Remix』(ソニー)、フロウ・ライダーの2013年作『Wild Ones』(Poe Boy/Atlantic/ワーナー)、Negiccoの2013年作『Melody Palette』(T-Palette)、パラ・ワンの2013年のEP『Every Little Thing Remixes』(PLUS VAGUE!/KSR)、lyrical schoolの2013年作『date course』(T-Palette)、タルトタタンの2013年作『グーテンベルクの銀河系』(EMISSION)、MEGの2013年作『CONTINUE』(スターチャイルド)、トーベヤンソン・ニューヨークの2013年のシングル“ロシアンブルー”(シグネ)、TRIP MENの2013年作『I'LL BE BACK』(Miami Enterpriz)、神前美月橋本甜歌)の2014年のシングル“HOW'S IT GOING?”(SPACE SHOWER)、DJやついいちろうの2014年作『PARTY』(ビクター)、tofubeatsが選曲した2014年のコンピ『ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました! Vol.5 tofubeats編』(アップフロントワークス)、color-codeのデビュー・シングル“I LIKE DAT”(コロムビア)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ