完全ソロ・ピアノ作品、室内楽作品、ボーイズ・ノイズとの変名作品、ジャーヴィス・コッカーとのコラボ作品など折々に多様な編成で活動する作曲家/ピアニスト/エンターテイナーの天才音楽家、チリー・ゴンザレス。クラシック史に置いて伝説的な名演や意味を残したバイロイトの地で、16歳に父と観たワーグナーのオペラから発した音楽家の道は、前述した多様な編成や表現へ姿を成した。本作では数十年振りとなる歌声も披露されデトロイトのOGとブルーザー・ウルフが参加。自身のペルソナとなったソロ・ピアノ作品で確立した〈ネオ・クラシック〉なる彼とは対岸にある新たな傑作。ええやんええやん。
フランスをテーマに同国の音楽家たちを招いた昨年の『French Kiss』からも、この鬼才がふたたび〈歌〉の表現へと向かっている予感は漂っていたが、このたびリリースされた新作は13年ぶりとなる〈ラップ・アルバム〉だ。流麗なピアノの調べと、この人なりの品格を匂わせるエレクトロニック・ビートを整然と組み合わせた舞台の上で、10年以上もの間、表現されることなく彼の大脳皮質を往来していた莫大な思念をリズミックに吐き出している。キャンセル・カルチャーやプレイリスト主導の音楽シーンといったテーマを独自の観点で論じており、ゴンザレス教授の社会時評といった趣も。