チリー・ゴンザレスがクリスマス・アルバム『A Very Chilly Christmas』をリリースした。フル・アルバムとしてのクリスマス作品はキャリア初で、ひそかに待望されていたものだった。

彼らしい静謐なソロ・ピアノを軸とした内容だが、選曲は“Silent Night(きよしこの夜)”や“O Tannenbaum(もみの木)”などのクリスマス・スタンダードに、ワム!の“Last Christmas”やマライア・キャリーの“All I Want For Christmas Is You”という大ヒット曲までも加えヴァラエティーに富んでいる。ゲスト・ヴォーカルとしてファイスト、ジャーヴィス・コッカーらも客演し、ドラマチックな彩りを添えている。とりわけ、昨年逝去したデヴィッド・バーマン(元シルヴァー・ジューズ)がパープル・マウンテンズとして遺した“Snow Is Falling In Manhattan”のカヴァーは、2020年に深刻なコロナ禍で傷ついたマンハッタンの街に捧げるような演出が施されていて、とりわけ心にずしんと響いた。

2004年以来のゴンザレスのファンだというミュージシャン、H ZETT M(H ZETTRIO)さん。この淡くも深いクリスマス・アルバムを含めたゴンザレスの音楽や表現に対する姿勢について、同じピアニストとしての視線も絡めつつ語ってもらった。

CHILLY GONZALES 『A very chilly christmas』 Gentle Threat/BEAT(2020)

クラシックの人やジャズの人がやることをやってない

――H ZETT Mさんがチリー・ゴンザレスを知ったきっかけは?

「2004年ですね。当時発売されたばかりの『Solo Piano』というアルバムが話題になっていて、〈これは何だ?〉と思って手に取りました。ジャケが気になったのと、ピアノだけの作品だということで購入に至ったというのがきっかけです。その後も他のアルバムや曲も聴いてましたね。“Working Together”(2008年)とかいい曲でしたよね。彼のドキュメンタリー映画『黙ってピアノを弾いてくれ』(2018年日本公開)も観ました。それで、若い頃はヒップホップをやってたとか、彼のことをあらためて知った感じです」

2008年作『Soft Power』収録曲“Working Together”
 

――初めて『Solo Piano』を聴いたとき、どう思われました?

「あのアルバムで彼はプリペアド・ピアノっていう、弦に何かを乗せたりして音を変える奏法をしていたんです。でも、ジョン・ケージみたいな過激なやり方じゃなく、その音色でソフトに弾いていて、素朴でシンプルでいいなと思いました。〈ゴンザレス〉って名前からして、もっと派手でラテンなイメージをしていたのに、すごくシンプルで静かだったんです」

――同じピアニストとしてご自身と通じるところはあると思いますか?

「どうでしょう? 彼のことはピアニストとして、というより、音楽として好きになりましたね。ドキュメンタリー映画を見て、〈ああ、だからあの音なのか〉と思うところも結構あったんです。弾きまくるのではなく、引き算というか。ものすごくやりたいことがあるけど、それを全部押さえつけたような感じ。強烈な個性なんですけど、それを消し去ることによって出てくるものみたいなことに挑戦してる気がします」

――その例えはわかる気がします。

「やりたいことはたぶんいっぱいあるけど技術的にできないとか、いろんな葛藤があったのかはわからないですけど、〈じゃあ自分にできることはなんだろう?〉って考えたときにポンッと出てくるものをこの人はいつも表現してる感じがします。体とか手がでかそうでパワーがありそうなんですけど、そこで力まかせに弾こうとしていない。指のコントロールがうまいんです。やさしい音を出せるんですよね」

2004年作『Solo Piano』収録曲“Dot”のパフォーマンス映像
 

――ゴンザレスはカナダ/モントリールのマギル大学でクラシックを勉強したそうです。そうしたアカデミックな素養もあるうえで、きちんと音楽のレッスンを受けた人だと絶対やらないようなことをしてたりもするんでしょうか。

「どうでしょうね? やらないことをしてるというよりも、クラシックの人やジャズの人がやることをやってないという感じでしょうね。個性というか。『Solo Piano』の頃からそうですけど、音階で遊んでる人ではあると思うんです」