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インタビュー

チリー・ゴンザレス(Chilly Gonzales)『A very chilly christmas』豪胆にして繊細。一筋縄でいかないクリスマス・アルバム

©︎2020 ANKA

豪胆にして繊細なゴンザレスの〈普通じゃない〉クリスマス・アルバム

 オルタナティヴ・ロックのフロントマンやエレクトロ・ラッパーとしてキャリアをスタートさせ、静謐なピアノ音楽で大ブレイク。しかし、今でも変わらず足で鍵盤を踏み、グランドピアノの弦上に寝転がり、時にラップし、そして叫ぶ。そんな破天荒な〈エンターテイナー〉であり続けるチリー・ゴンザレスの最新作は、多くの人にとって馴染み深いクリスマス・ソングのカヴァー集だ。挑発と遊び心に満ちた、〈複雑な〉新作とは――。

CHILLY GONZALES 『A very chilly christmas』 Gentle Threat/BEAT(2020)

 

――今作はクリスマス・ソングのカヴァー・アルバムです。

「普通のクリスマス・アルバムって、〈さあクリスマスだ! みんな楽しくしましょう!〉と、作られた笑顔を感じてしまうことが多いから、現実に適したものを作りたかった。今年のクリスマスは、幸せなふりをするようなものは役に立たない。様々な感情が入り混じったものになるだろう。コロナ禍前にアルバムは完成したけど、結果的に自分が思った以上にタイミングが合ったと思う。クリスマスの楽曲自体には美しい曲が揃っている。僕も子どもの頃から弾いて歌ってきたけど、それをある時、自分流にアレンジする機会があった。それ以来この時期には、友人とのディナーの時など、いろんな場面で弾いて慣れ親しんできた。それが今作につながったんだ」

――伝統的なクリスマスソングとして知られている楽曲に並んで、“All I Want For Christmas Is You”や “Last Christmas”も入っています。

「クリスマスはキリスト教という一宗教を超え、良くも悪くも資本主義社会の一部。そんな特別の季節のサウンドトラックを作りたかった。そこで現代のクリスマスのスタンダード曲として、世界のどこでも知られているワム!やマライア・キャリーの曲を、伝統的な曲と並べて馴染むかどうか試し、自由にアレンジしようと思ったんだ」

――アレンジには旋律をマイナー調にしたものが目立ちます。日本のファンにとっては、昔の歌謡曲などを思い起こさせ、笑いの要素を感じます。

 「“Maria Durch Ein Dornwald Ging”のようなドイツ中世の伝統的楽曲は、ほとんどの人が知らないのでそのまま素直に弾き、誰でも知ってる“Jingle Bell”はマイナー調に変えて弾いた。子どもの頃から、曲をマイナー調に変えて遊んでいたけど、変化させること、それでもなおその曲だと認識できることは、手品みたいですごく面白いと思っていたんだ。そこには君が言う通り、僕がオーディエンスにウィンクをしているような、笑いの要素があるんだよ」

――参加アーティストについて教えてください。

 「ジャーヴィス・コッカー(Ex. Pulp)とは2018年にアルバム(註:Deutsche Grammophonからリリースされた『Room 29』)を作って、ファイストとも、彼女のアルバムに参加したりお互いのステージに出演してきた。最高のシンガーと作詞家に声をかけた。2人は僕の音楽的な兄と妹みたいな存在なんだ。今作チェロ演奏をしてくれたステラ・ル・ペイジとは、ずっと一緒にツアーに回ってもらっている。今回ついにアルバムに参加してもらえて嬉しかったね」

――今作のジャケットは何を意味しているのでしょう?

 「これまでも多くのチリー・ゴンザレスの視覚言語を担当してきたベルリンを拠点とするアーティスト、ニーナ・ロードによるもの。作品のコンセプトに対し完璧な作品を作ってくれた。ここには僕の古いピアノの部品が使われている。彼女はそれをずっと保管してくれていて、雪の結晶もしくは星のようなジャケットを作ってくれた。資本主義的なものではなくて、どこか古びていて、想像上の中世のクリスマスのような趣きがあるんだ。また、自分のチリーという名前を初めてタイトルに使用している。chillyには肌寒いという意味も、チリー・ゴンザレスのクリスマスという意味もある。ジャケットとよく合っていると思うね」

――このアルバムにはあなたにしか出せない個性、真似できない要素があると思います。

 「クリスマス・ソングから陳腐な意味合いを引き剥がし、リアルな、複雑な感情を描写しようとした。パーソナルで親密なことが僕の音楽のトレードマークなので、バスローブを着てスリッパを履いてリスナーの隣にいるような感じにしたかった。みんながプレゼントを開けたり、料理をしたり、集まったりする時に、何度もぶっ続けで聴ける作品を念頭に作った。そしてそれは、子どもの頃の記憶や、人と一緒に演奏したり歌ったりした思い出から生まれたものなんだ」

 今年10月には、あの懐かしいポップの歌姫、エンヤについての魅力を書き記した著作が出版された。友人や恋人、家族に聴かせ反応を見たい、そんな彼の可笑しくて深い最新作。何かスペシャルなクリスマスを演出してくれる(?)はずだ――。

 


チリー・ゴンザレス(Chilly Gonzalez)
作曲家・ピアニスト。1972年生まれ。カナダ出身。本名はジェイソン・チャールズ・ベック。27時間以上というピアノ演奏のギネス世界最長記録の持ち主である彼は稀有のエンターテイナーでもある。トップアーティストたちへの楽曲提供やプロデュースも。2014年には年間最優秀アルバムに選ばれたダフト・パンクの『Random Access Memories』に参加しグラミー賞を受賞。大人のためのやさしいピアノ教本「Re-Ontroduction Etudes」はベストセラーを記録。

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