『Contraband』20周年記念盤で蘇る、ヴェルヴェット・リヴォルヴァーの衝撃

 ミレニアム前後に隆盛を極めたニューメタル/ラップ・メタルがやや沈静化していた2004年、〈破格のスーパー・バンド〉によるファースト・アルバムがロック・シーンを激震させた。ヴェルヴェット・リヴォルヴァーの『Contraband』である。同作が発表20周年を迎え、日本独自企画の2枚組CDとして新装リリースされた。

VELVET REVOLVER 『Contraband (20th Anniversary)』 RCA/Legacy/ソニー(2024)

 バンドの結成自体は2002年に遡る。オジー ・オズボーン~モトリー・クルーと渡り歩いたドラマー、ランディ・カスティロの追悼コンサートが開かれ、そこでガンズ・アンド・ローゼズを脱退していたスラッシュ(ギター)、ダフ・マッケイガン(ベース)、マット・ソーラム(ドラムス)が顔を合わせ、新バンド構想を目論む。そこにデイヴ・ナヴァロ・バンドやzilchの活動で知られるデイヴ・クシュナー(ギター)が加わったものの、ヴォーカリスト探しに難航。曲作りに励む一方、数々のシンガーとオーディションを繰り返した末、ようやくストーン・テンプル・パイロッツのスコット・ウェイランドがフロントマンの座を射止める。バンドとスコットがスタジオに入った際、〈閃光が走った〉とスラッシュは回想している。

 ただし、役者は揃えど内容が伴わない作品もある。ロック・ファンとして想定内では物足りない、想像を遥かに凌ぐ圧倒的な一枚に出会いたい。『Contraband』はハード・ロック/グランジ双方のファンの期待に応え、さらに不特定多数のリスナーを魅了する傑作であった。グランジ文脈で語られることが多いストーン・テンプル・パイロッツだが、2作目『Purple』(94年)ではハード・ロック的な音を鳴らしており、他メンバーとの相性もバッチリだった。

 まずは冒頭を飾った“Sucker Train Blues”の破壊力が半端じゃない。サイレン音を含むイントロを経て、疾走する演奏と共にスコットの捲し立てるような歌声が続く。まさに昇天必至のアンセム曲と言っていい。〈SONICMANIA 05〉で初来日を遂げた彼らは、同曲を1曲目にプレイ。幕張メッセは嬌声交じりの熱狂に包まれ、ステージ前方に観客がドドドーッ!と詰めかけた光景をいまだに覚えている。黒い制帽を被って身をクネクネと踊らせ、妖艶な歌声でバンドを牽引するスコットのカリスマ性は、完璧にロックスターのそれであった。佇まい、歌唱力共にガンズ・アンド・ローゼズのアクセル・ローズに勝るとも劣らないオーラで観客の心を掌握していたのだ。

 作品に話を戻すと、バッドボーイズ風ロックンロールの“Do It For The Kids”、メロディアスな“Illegal I Song”など、アルバム前半の5曲目までは息つく暇ナシの攻めっぷり。そして、中盤の“Fall To Pieces”はスコットが刑務所から保釈された日に歌入れを行なったという、スタジアム映えのする感動的なナンバーだ。また、天空に飛翔するかのようなスラッシュの哀愁溢れるギターも絶品。アルバム後半には映画「ハルク」に提供された“Set Me Free”も収められ、最後まで飽きさせない流れになっている。

 そして、Disc-2にはシングルのB面や『Contraband』のツアー・エディションに収録されたレアな楽曲を収録。“Fall To Pieces”のアコースティック・ヴァージョンに加えて、バンドの嗜好性がわかるカヴァー5曲が並ぶ。セックス・ピストルズの“Bodies”は唯一のライヴ音源で、これがパンク魂むき出しの好カヴァー。スコットのダミ声は本家に負けないカッコよさだ。ほかにチープ・トリック、エアロスミス、ニルヴァーナ、ピンク・フロイドと多彩な選曲で楽しませてくれる。特にニルヴァーナの“Negative Creep”は原曲を超えるほどの迫力だ。

 バンドは2作目『Libertad』を2007年に発表し、その翌年にスコットは脱退(バンドも事実上解散)。その後、彼は薬物併用による中毒で2015年に他界した。その事実は残念でならないが、稀代のフロントマンと剛腕ミュージシャンたちによる無二のケミストリーを本作で追体験してほしい。

ヴェルヴェット・リヴォルヴァ―の2007年作『Libertad』(RCA)