
アート・ヒラハラの魔法がかけられたアルバム
――本作はニューヨークのサムライ・レコーディング・スタジオでの録音です。
「アートさんが〈ここがいちばん音が良いから〉と言って選んでくださいました。オーナーでサウンドエンジニアのデイヴィッド・ストローラーはグラミー賞を受賞しています。バンドのミュージシャンもアートさんお気に入りのプレイヤーが揃ったので、とてもテンションが上がっていましたね。歌うのは難しかったのですが、やりがいがあるレコーディングでした。
それと、先ほど言った発音の先生フィービーが、実はアートさんの親戚だったことがあとから判明するなど、私の人生はすごく縁に恵まれています。ニューヨークにいるアジア系の人々は、みんな結束して協力し合いますしね」
――1曲目の“What Is This Thing Called Love”からスキャットが登場して軽快です。
「スキャットは本当に難しかったのですが、頑張りました!
アレンジに関しては、アートさんと意見を出し合って決めよう、ということにしたのですが、この曲をはじめ、ほとんどの曲でお互いに出したイメージが一緒だったんです。例えば〈“Send In The Clowns”は壮大に〉と頼むと本当にその通りにしてくださって、阿吽の呼吸というか、本当に魔法のようでした。
演奏陣も単なるシンガーのバッキングではなくそれぞれの良さが出ていて、ボーカルも一つの楽器として参加しているようなアルバムだと評してくださった方もいます」
――スキャットでいうと、ジョビンの“No More Blues”でも出てきますね。
「これはアートさんのこだわりで、アントニオ・カルロス・ジョビンのオリジナルに忠実なメロディを歌っているんです。ジョビンに対してのリスペクトですね。〈これは絶対に譲れないから〉と言われて。ジョビンのように曲を作れる人はいない、ボサノバの神様のような方だと思います。
私はいろいろな人のバージョンを聴いて慣れてしまっていたので、逆にオリジナルのメロディをなぞるのが新鮮である反面、すごく難しく感じました。これは本作の聴きどころのひとつですね」
――トリーネ・レインのカバー“Never Far Away”は爽やかに決めています。
「この曲はファーストアルバムにも入れているんですよ。ライブで歌うと、終演後に〈あの曲は何という曲?〉と聞かれることが多いんです。どこか日本人の琴線に触れるところがあるのでしょうね。私も大好きな曲です」
人生の応援歌として歌う日本語詞の“Keep Your Smile”
――収録曲はどのように決めたのですか?
「いつもいろんな音楽を聴いて、歌ってみたい曲をメモしていたりするのですが、本作に収められた10曲は、現時点での〈私が歌いたい曲トップ10〉ですね(笑)」
――日本語で歌う“Keep Your Smile”は前半のハイライトだと思います。
「曲を作ってくれた方は非常に上手いギタリストだったのですが、もうミュージシャンを辞めてしまったんです。けれど、辞める前に2曲だけ、私のために作ってくれたんですね。1曲は前作に収録した“Rico’s Dream”、もう一曲がこの“Keep Your Smile”です。
今回カタチにするにあたって、英語の詞を一生懸命考えていたのですが(笑)、曲を聴いた私のボイストレーナーの方が〈これ、日本語にしたほうがメロディが引き立つんじゃない? 宮崎駿のような世界が似合うよ〉とアドバイスしてくださって。そこで改めて日本語で考えてみました」
――秋の高い空を感じさせる素敵な曲想です。
「私は散歩が好きなので、空や花など自然を感じて歩いている自分の様子をイメージして作りました。人生は良い日ばかりではなく、もう仕事したくないような日とか不幸なことが起こる日もあるし、あまりにも寒い冬の日もある。だけど冬はやがて春になるし、とにかく笑顔でいましょう、という曲です。人生の応援歌みたいな感じですね。
先日行ったリリースライブで、この曲を聴いて涙してくださったお客さまがいて、アルバムを買ってくださったのですが、後日連絡をくださって。彼女は昨年会社を辞めさせられて落ち込んでいたのですが、〈この曲を聴いて元気が出ました、そして新しい仕事に就くこともできました〉とのことで、本当にこの曲が応援歌になったようで、うれしく思いました」
――前向きになれる曲ですね。
「特に女性に気に入ってもらえる曲だと思います」