David James Swanson

あのホワイト・ストライプスに最接近したという原点回帰の新作――名前のないアルバムから轟く電撃は、隠しようもないこの男ならではのロックの咆哮だ!

積極的な原点回帰

 〈レコードを買って帰ってきたら、袋の中に誰のものかわからない、『NO NAME』とだけ記されたいわゆる白盤が入っていたんだ。店員が勝手にオマケとして袋に入れたらしい〉――2024年の7月19日にナッシュヴィルのダウンタウンにあるジャック・ホワイトのレコード・ショップ、サード・マンで買い物をしたAさんの、この話には続きがある。

 〈何だろうと思って、その白盤をターンテーブルに乗せ、針を落としてみたんだ。ジャック・ホワイトの曲にしか聴こえなかったよ。まさかと思ったけど、いや、待てよ、ジャックならあり得るかもしれないと思ったんだ。だから、もしかしたら自分と同じことを考えている人がいるかもしれないってネットを覗いてみた。そしたら、みんながこれはジャック・ホワイトの新作だって言ってたんだ!〉。

JACK WHITE 『No Name』 Third Man/Legacy/ソニー(2024)

 ジャック・ホワイトによる2年ぶりのソロ・アルバム『No Name』は、現代のロック・シーンを代表するビッグネームらしからぬ、そんなゲリラ的なリリースと言うか、プロモーションがまず話題になったが、それ以上に人々を驚かせたのは、ジャックのソロ作品の中で、かつてロック・シーンにどでかい風穴を開けた、あのホワイト・ストライプスにもっとも近いと大歓迎された曲の数々だった。

 なるほど、そう来たか。ヒップホップとサンプリングも導入して持ち前のブルース・ロックをアップデートしたエレクトリック盤『Fear Of The Dawn』と、リッチなアレンジで彼なりにアメリカーナにアプローチしてみせた(広義の)アコースティック盤『Entering Heaven Alive』という、共に2022年にリリースされた対になる2枚のアルバムは、ジャック・ホワイトのキャリアにおけるピークアウトをアピールするものだった。だから、その次のアルバムがある意味、原点回帰を思わせるものになることは大いに頷ける。

 ジャック自身、その2枚を完成させて、その時にできることはすべてやり尽くしたという手応えがあったのかもしれない。というのは、2022年4月から10か月を費やして世界各地を回った〈Supply Chain Issues Tour〉(その一環として、10年ぶりとなる〈フジロック〉出演が実現している)の終了後ほどなく『No Name』の制作に取り掛かっていることから、その後の方向性に迷って、ある意味消極的に原点に回帰したとは思えないからだが、本当のところはジャックに尋ねてみないとわからない。もしかしたら、ドミニク・デイヴィス(ベース)、ダル・ジョーンズ(ドラムス)、クインシー・マクラリー(キーボード)と共に4人で世界各地をツアーするなかで、ロック・バンド・サウンドの醍醐味を今一度追求してみたいと感じたのかもしれない。後述する『No Name』の参加ミュージシャンの顔ぶれからは、そんなことも想像できる。