各々に濃密なキャリアを追求してきた男たちが、ナッシュヴィルでついに再会を果たした。経験を重ねたうえで結成時の衝動に立ち返った11年ぶりのニュー・アルバム!
東京2公演だけではもったいない!——ライヴ会場に足を運んだ誰もがそう思ったに違いない。13年ぶりに実現した今年4月の来日公演でラカンターズは、批評も解体も再構築もない、誰が何と言おうと、これがロックだと言えるエネルギッシュな演奏を見せつけ、満員の観客を圧倒したのだった。デッド・ウェザーやソロ名義の活動に加えて自主レーベルであるサード・マンの運営にも精を出していたジャック・ホワイト(ヴォーカル/ギター)をはじめ、メンバーそれぞれに自身のキャリアを追求していたため、本格的なツアーは8年ぶり。にもかかわらず、そういうライヴができるのは、メンバー全員が実力派のミュージシャンであることもさることながら、4月6日のナッシュヴィルから今回のツアーをスタートさせる直前に11年ぶりとなるサード・アルバム『Help Us Stranger』を完成させていたことも大きかった。そう思う理由は、同作がファースト・アルバム『Broken Boy Soldiers』(2006年)を思わせる、いや、それ以上にロッキンな衝動に満ち溢れた作品になっているからだ。
THE RACONTEURS Help Us Stranger Third Man/BIG NOTHING(2019)
それぞれに忙しかった4人が久々に顔を揃えたきっかけは、当時ソロ作『Boarding House Reach』(2018年)を作っていたジャック・ホワイトが、イマイチそこにハマらない“Shine The Light On Me”を、ブレンダン・ベンソン(ヴォーカル/ギター)に〈どう思う?〉と聴かせたことだった。
「むしろラカンターズ向きの曲だと思ったんだ」(ジャック)。
「〈ラカンターズの曲っぽくない?〉って訊かれたとき、自分のほうがうまくやれると思ったよ(笑)」(ブレンダン)。
「そしたら、みんなができるちょうどいいタイミングだったんだ」(ジャック・ローレンス、ベース)。
昨年の7月、ジャック・ホワイトがまだ『Boarding House Reach』のツアー中にもかかわらずスタートしたセッションからは、あっという間に30曲もの原石が生まれたという。そこから全員が良いと思う曲を磨き上げ、ナッシュヴィルのサード・マン・スタジオでレコーディングを敢行。その後すぐに世界中を回るツアーを始めたことも含め、この超人的な瞬発力はラカンターズ最大の武器と言ってもいい。
『Help Us Stranger』の全体の印象は前述した通りだが、「ザ・フーを彷彿とさせるアンセム」とパトリック・キーラー(ドラムス)が表現する1曲目の“Bored And Razed”を筆頭に、「それぞれにどんなことができるか、サウンドを追求していった」とジャックが語る全12曲は、ファンキーでラテンっぽい“Help Me Stranger”やピアノも使ったバラード“Only Child”、ハード・ロッキンなブギの“Don't Bother Me”、ドノヴァンのカヴァー“Hey Gyp(Dig The Slowness)”……とそれぞれに違う魅力を持ち、最後まで飽きさせないところが大きな聴きどころになっている。その意味では〈原点回帰〉というよりもむしろ、さまざまなアイデアや技巧を試した前作『Consolers Of The Lonely』(2008年)の経験を踏まえたうえで、『Broken Boy Soldiers』の頃の衝動を取り戻した作品と考えるべきなのだろう。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。僕たちはその可能性を持っているという点で幸せなバンドだと思う。それができるバンドはそう多くはない。曲によって違う躍動感や、違うグルーヴ、違うテンポ、違うキー、違う人が歌っている、というアルバムを作るのは難しいけど、それができたら最高だ」(ジャック・ホワイト)。