あれこれと振り返りつつ、晩秋はウィーザーの〈味わい深い〉新作に舌鼓!
昨年の〈White Album〉こと『Weezer』が全米アルバム・チャートで初登場4位を記録し、第59回グラミー賞〈最優秀ロック・アルバム〉部門でのノミネートを果たしたウィーザー。同部門にノミネートされるのは彼らの25年のキャリアにおいて初で、今年2月に授賞式に出席した4人は、とても誇らし気に見えた。〈White Album〉は、ウィーザーのファンであるジェイク・シンクレアが初期2作のサウンドを狙ってプロデュースしたおかげで、新機軸を取り入れつつ、往年のファンを満足させるロック・アルバムになっていた。そんな前作からたった1年半で彼らが完成させたのが、ニュー・アルバムの『Pacific Daydream』である。

前作の成功で、〈いまのウィーザーにできることをやりきった〉と感じたのではないかと思うが、今回の彼らは複数のヒットメイカーを制作陣に迎えて、新しいサウンドに挑んでいる。3月に発表された先行シングル“Feels Like Summer”は、前作でいちばん実験的だった楽曲“Jacked Up”をプロデュースしたジョニー・コファーが、ジェイソン・デルーロやグウェン・ステファニーらポップ方面の仕事で知られるJR・ロテムと共作/プロデュースしたもの。“Jacked Up”でも披露していたファルセット・ヴォイスを採り入れた、ソウルフルなポップとギター・ロックを融合した斬新な曲になっている。リリース後はファンの間で賛否両論が巻き起こったが、このシングルは結果的にアメリカのオルタナティヴ・ラジオ・チャートで首位を達成し、ウィーザーにとって過去10年間で最大のラジオ・ヒットとなった。
続くセカンド・シングルの“Mexican Fender”の共作者は、ドイツ出身のプロデューサー、トビー・ガッドで、過去にジョン・レジェンドの“All Of Me”やビヨンセの“If I Were A Boy”といった世界的ヒット曲を手掛けた人物。骨太のギター・リフにラップのライミングのようなヴォーカルを乗せ、サビでは哀愁たっぷりのメロディーが飛び出してダイナミックな広がりを見せる曲で、ウィーザーらしさを維持しながらも新しいステージに向かっている。そしてサード・シングル“Beach Boys”は、ファンキーなベースラインが印象的な、風変わりでおもしろいポップソング。この曲を手掛けたブッチ・ウォーカーが、アルバム全体のプロデュースを担当した。
アヴリル・ラヴィーン、ピンク、オール・タイム・ロウなどの作品をプロデュースし、ソロ・アーティストとしても活動するブッチ・ウォーカーは、ウィーザーの2009年作『Raditude』で、シングル“(If You're Wondering If I Want You To)I Want You To”を含む2曲をプロデュースしていた。2曲ともブッチらしい明朗なポップ・ロックだったが、今作もまた、全体的に明るいトーンでまとめられている。『Raditude』と明らかに違うのは、ヒップホップ/R&B寄りのダンサブルでモダンなポップになっていることだ。テイラー・スウィフトの新曲で明らかなように、いまのアメリカで最先端の音は、ヒップホップを取り込んだポップス。その要素をウィーザーのロックに組み込んだ本作からは、必然的に激しいギター・サウンドは姿を消している。今作においてもっともロックな“Get Right”ですら、ギターの音量は控え目だ。とはいえ“Happy Hour”や“QB Blitz”、“Sweet Mary”などでは、リヴァースの泣きのメロディーとエモいヴォーカルが健在で、意外な新しさとウィーザーらしさを、違和感なく融合することに成功していると思う。
最新シングルとして10月に発表された“Weekend Woman”は、YouTubeのコメント欄で多くのファンが指摘しているように、〈Green Album〉制作時の未発表曲“Burning Sun”のメロディーを再利用している。だが、そのメロディーのあと、ビーチ・ボーイズの美しいハーモニーに通じるサビへと発展し、“Burning Sun”よりもずっと凝った作りに生まれ変わっている。この曲に代表されるように、今作はポップなサウンドで統一されてはいるが、各曲の構成が前作以上に複雑で変わっているので、聴けば聴くほど新鮮な発見があるところも魅力である。
タイトルの『Pacific Daydream』は〈太平洋の白昼夢〉という意味だが、リヴァースが暮らすサンタモニカのある西海岸のビーチは、前作のテーマでもあった。今作の違いは、そのビーチで〈白昼夢〉を見ているという点だ。リヴァースは、中国の荘子の説話「胡蝶の夢」を読んで、この構想を思いついたという。ある日、自分が蝶になって飛び回っている夢を見た荘子は、目覚めて荘子に戻ったあとも、自分が蝶の夢を見ている人間なのか、それとも人間であることを夢で見ている蝶なのかがわからなくなったという話である。それを元に、リヴァースは夢と現実の境界線が曖昧な白昼夢のストーリーを、これらの新曲の題材にした。〈リヴァースに愛人?〉とツッコミを入れたくなる曲もいくつかあるが、それもどこまでが現実でどこまでが夢なのか、想像しながら楽しめる。
11作目にして画期的な冒険に挑み、新境地を切り開いた『Pacific Daydream』は、ギター・ロック・ファンからは批判されるかもしれない。それでも、彼らがウィーザーらしさをないがしろにせずに、ここまで今日的なアルバムを作ったことは祝福に値すると思う。世界中に新しいファンを広げる重要な一枚になることだろう。 *鈴木美穂
文中に登場したアーティストの作品を紹介。
その素敵な関係からも窺える、ウィーザーが日本で愛され続ける理由
昨年度のグラミーで、本国での根強い人気を実証してみせたウィーザー。90年代パワー・ポップの火付け役として〈一時代を築いたバンド〉だけに、伝説のなかで生きているバンドになっていてもおかしくない存在だし、同時期に活躍した同系統のバンドには、すでに〈何処へ?〉な人たちも少なくないが、それでもなお……というより、ここ日本での人気も相変わらず。本国では商業的に失敗した96年のセカンド・アルバム『Pinkerton』が日本では当時からウケた、というところからウィーザーと日本との素敵な関係は始まった。
90年代後半からは、くるり、ナンバーガール、ASIAN KUNG-FU GENERATION……日本でもリヴァースのような眼鏡男子が新たなロック・スターとして台頭。2006年にはリヴァースが熊本県出身の日本人女性と結婚(リヴァースの日本語でのTwitterアカウントは、くまもんならぬリバースクオモン)。プロポーズをしたクルマの中で聴いてたのはユーミンだったそうで、J-Popを好んで聴くこともしばしば公言していた。
そんな彼は2012年にスコット・マーフィーとのユニット、スコット&リバースを結成し、日本語のオリジナル楽曲を制作。ファースト・アルバム『Scott & Rivers』では、それらに混じって木村カエラ“Butterfly”といったとことん直球なカヴァーもチョイス。今年リリースされたセカンド作『ニマイメ』では、miwa、MONGOL 800のキヨサク、RIP SLYMEのPESと共演。日本の音楽シーン、それも結構メジャーどころのそばに足跡を残してきただけに、その影響は広範だ。
バンドマンにとっては〈ロックな歌モノ〉のスタンダードとして愛されているところはあるし、ジャケでちゃっかりオマージュを捧げちゃってる箱めるモ!やラブリーサマーちゃんみたいにキュートな方々からもモテてらっしゃる。言わば、信頼と定評のあるリヴァース印の音楽。革新的なアルバムと言われる新作も、日本のファンなら絶対気に入るはず! *久保田泰平
新作での変化の真っ当さを裏付ける、リヴァース・クオモの多彩な仕事
〈チャレンジ〉と〈原点回帰〉の繰り返しはコア層の間で賛否両論になるようだが、一歩引いたところからウィーザーを眺めれば、彼らが人脈や方向性を多様に広げる行為はごく自然なことのように思える。その大きな理由となるのが、バンド外におけるリヴァースの多彩な活躍だ。今年に入ってからだけでも、彼はAJRの“Sober Up”やRACの“I Still Wanna Know”に客演。前者はメガネ君も含むNYの3兄弟で、後者は10代の頃にウィーザーに夢中だったというだけあってギター・ソロも委ねている。いずれもその存在をエモーションの象徴として機能させており、実際にEDMブーム以降のダンス音楽の青春ポップ化に彼の歌唱がハマるのは確かだろう。
その流れに先鞭を付けたのが「ウィーザーは高校時代の俺のヒーローで、『Pinkerton』はいまでも俺にとってベスト10アルバムの一枚だ」(bounce 342号より)と語るスティーヴ・アオキで、“Earthquakey People”(2012年)で初コラボしてからは“Light Years”(2015年)でも手を組んでいる。一見ミスマッチな意外性に反して楽曲での座りは非常にいいため、この界隈においての需要は今後も増していきそうだ。一方、リヴァースがソングライターとして関わっている楽曲も、近年ではパニック! アット・ザ・ディスコやチャーリーXCX、マクバステッド、オール・タイム・ロウなど幅広く、そうした状況を前提とすれば、『Pacific Daydream』でバンドが選んだ変化も当然のように思えてくるのではないだろうか。 *轟ひろみ
DISCOGRAPHIC WEEZER
ウィーザーを知るための11枚

“Buddy Holly”などの代表曲を多数含むファースト・アルバム。新世代パワー・ポップの一枚として注目されたが、ノスタルジックなポップセンス、泣きを含んだ歌声、オタクの心情を、夢想を交えながら歌った歌詞のユニークさはこの時すでに抜きん出ていた。

失恋を含むリヴァース・クオモの挫折を歌い上げた、オタクのバイブル。日本における人気、リヴァースのオタク・キャラも決定づけた2作目。アンチ・マチズモとセルフ・プロデュースによるゴツッとした演奏が後のエモに与えた影響は見逃せない。

〈Blue Album〉を手掛けたリック・オケイセックをふたたび起用した普遍のポップ・アルバム。実は解散の危機からの復活を印象づける起死回生の一枚でもあった。ハード・ロッキンな“Hush Pipe”とネオアコ風の“Island In The Sun”といった新機軸も話題に。

前作からわずか1年のタームでリリースし、完全復活をダメ押しでアピールした一枚で、サウンド的にも前作の延長線上でダーク&ハードに迫る。シングル・ヒットした“Dope Nose”や“Keep Fishin'”がよく知られているが、エモい“Slob”という隠れた名曲も。

全米2位を記録した中期の傑作。リック・ルービンと完成させた。1曲目の“Beverly Hills”こそ意表を突くラップ・ロックながら、それ以外の曲にはファンが求めるリヴァース節を満載。“Perfect Situation”という新しいアンセムも生まれた。

いわゆる〈ウィーザーらしさ〉からの脱皮をテーマに掲げ、ラップと讃美歌パートを含む組曲やファンキーなロック・ナンバーにも挑んだ意欲作。レーベルに求められ、いわゆるウィーザーらしい“Troublemaker”“Pork And Beans”の2曲を追加した。

ヒップホップ畑のジャーメイン・デュプリをはじめ、外部の才能と半数以上の曲を共作。エレポップも含む多彩な曲の数々は、前作で挑んだ〈脱ウィーザー〉をこじらせてしまった印象も。しかし、メロディーそのものは、リヴァース節以外の何物でもない。

トニ・ブラクストン“Unbreak My Heart”のカヴァーも含む未発表曲集。アウトテイクとは思えない曲の出来に驚かされるが、リヴァース自身も正式なアルバムとして数えているという。グランジ調の“Everyone”はファンなら聴いておきたい。

『Raditude』と同じく、大半の曲をライアン・アダムス、リンダ・ペリーらと共作しながら、サウンドそのものは原点に回帰。昔からのファンを狂喜させたエピタフ移籍作。共作によってストレートなパワー・ポップ・サウンドが際立っている効果も聴き逃せない。

リフの立った曲が多いせいか、ややマッチョにも感じられるが、三たびリック・オケイセックと組んだことも頷けるパワー・ポップ作品。ベスト・コーストのベサニー・コセンティーノが“Go Away”に加えた可憐な歌声も聴きどころだ。

“Thank God For Girls”“Jacked Up”ではモダンなポップ・サウンドに挑戦した〈White Album〉。それに加えて、ビーチ・ボーイズの影響といった新機軸と往年のファンが求める〈らしさ〉が絶妙に交差。彼らがいまも現在進行形であることを物語っている。