結成10年を迎えたバンドがその旅路も踏まえて記録した、激動の時代のドキュメント――何度も何度も闇に火を灯すべく至上のニュー・アルバム『Cipher』は高らかに響き渡る!

激動の時代のドキュメント

 昨年は、「小林さんちのメイドラゴンS」の主題歌となった新たな代表曲“愛のシュプリーム!”を発表。コロナ禍に突入以降も柔軟な表現を模索してきたfhánaが、4年ぶりのオリジナル・アルバム『Cipher』を完成させた。バンド結成前の佐藤純一が残したボカロ曲“Cipher.”をオープニングに、同じ意味の表題を持つ“Zero”をエンディングに据えた2章立ての全17曲。「今作は、完全なるドキュメンタリーなんです」──そう佐藤は語りはじめる。

fhána 『Cipher』 ランティス(2022)

佐藤「コロナ前とそれ以降を跨ぐ作品になるので、〈激動の時代のドキュメント〉みたいな作品になるとは思ってたんです。で、今年の1月に東京と大阪でBillboard Liveツアーを開催した際にtowanaのリクエストで“Cipher.”を演ってみたら、すごくパワーのある曲だし、いまの時代に通じるテーマ性も感じて、ここで再録するのがいいんじゃないかと思って。あと、fhánaは今年で結成10年目なので、今作には原点回帰というか、〈バンドの10年の歩みのドキュメント〉ってイメージもあったんですよ。そこでいうと、“Cipher.”はfhánaの結成直前、yuxuki(waga)君やkevin(mitsunaga)君と知り合った頃に作った曲で、歌詞も(fhánaのほとんどの歌詞を手掛ける)林英樹君に初めて依頼していて。言ってみればfhánaの旅の前日譚みたいな曲だし、〈サイファ〉って数字の〈ゼロ〉という意味もあるから、アルバムのタイトルにしてもいいんじゃないか、って話をみんなにしたんです。歌詞だけは、2022年にフィットするよう一部リ・クリエイトしてますね」

 新作のコンセプトの起点となる優美なミディアムに続くのは、バンドの音的な最新モードと言える“Air”。総勢12名のブラス/ストリングス隊と共にクールな艶めきとファンキーなグルーヴを振り撒くメトロポリタン歌謡だ。

佐藤「2021年のfhánaはやっぱり“愛のシュプリーム!”だったと思うんで、あの音の質感──ブラック・ミュージックのリズムで、生のストリングスやブラスが豪華に入って、という曲をめざして作ったのが“Air”。仮タイトルは〈ジャミロクワイ曲〉でした(笑)。“Logos”(2020年)を作った経験からtowanaの朗読を編集してカオスなパートを組み上げるアイデアが生まれたり、哀愁漂う展開は“愛のシュプリーム!”のカップリング“GIVE ME LOVE”を踏まえて出てきたものだったり。さらにダンサブルな曲でもあるので、珍しく最後までどう仕上がるかわからなかった曲でした」

towana「今回のアルバムはシリアスな曲が多いから、“Air”は小難しいことを考えずに聴ける歌詞にしたいなって。そんななかで、ある日カフェに行ったら、カップに〈Love is in the air〉って書いてあったんですね。素敵な言葉だなと思って。そのとき一緒にいた草野華余子さんも〈これで書いたらいいやん〉ってアドバイスをくれて、そこからインスピレーションを得て書き上げました」

佐藤「towanaも言ってたんですけど、〈愛はほらこの風の中〉ってフレーズから思い出したのはBillboard Liveツアーのことで。久々の有観客ライヴだったんですけど、ほんとに愛に満ちた、幸せな空間だったんですね。あの風景がここに繋がってると思います」

waga「ギターはリファレンスがあったので、基本的にはそれを汲み取って。あと、こういうファンクっぽい曲には個人的に好きなヴルフペックの要素も入れたいなと。自分のトレンドとも合ってたので楽しく演れました」

kevin「僕は一生懸命に応援してました(笑)。ただ、僕が以前“GIVE ME LOVE”で作った音を佐藤さんがリサイクルして入れてくださってます」