新しい世界線が描くのは、地に足の着いた日常の物語――現体制で初めて仕上げたフル・アルバム『The Look of Life』は鮮やかな彩りで生活と生命を祝福する!
生活が戻ってきた
時代の激動とバンドの10年の道程をドキュメントとして重ね、閉塞感のなかで希望に手を伸ばした前作『Cipher』(2022年)から一転。3人体制となって初のフル・アルバム『The Look of Life』において、fhánaはまた新たなモードへ突入している。
佐藤純一「『Cipher』は2019年から2022年ぐらいの間に作った作品で、当時の時代背景やfhána自体の状況も含め、けっこうシリアスな作品だったと思うんですよ。そんな時期を過ごして、いまは完全とはいかないにしてもようやく普通の生活が戻ってきて、fhánaとしても新体制でまたワクワクドキドキ、楽しいことが待ってるみたいな、そんな状態にあって。だから次は、明るくて温かみのある、優しい作品を作りたいなと思ったんですよね。いままでのfhánaは壮大で、神様目線の曲が多かったけど、もっと一人一人の心や生活に寄り添うような、日常のちょっとした煌めきや尊さを歌うような、そんな世界観のアルバムを作りたいなと」
軽やかに舞うビートと、生活の断片を映した〈声〉のコラージュ。小沢健二好きの佐藤らしい副題を冠したエレクトロニカの“Introduction(life is coming back)”から表題曲“Look of Life”へと滑らかに繋がる――まさに〈日常が帰ってきた〉場面から本作の物語は始まる。
佐藤「“Look of Life”は紆余曲折の果てにここに辿り着いたんですけど、最初は〈明るいアルバム〉ってところから“World Atlas”(2018年)みたいな曲を作ろうとしてたんですよ。でもイメージに合う曲が出来なくて、それなら同じミドルテンポの“僕を見つけて”(2019年)を明るくしたような曲調で作ってみようとしたけど、それもダメで。それで試行錯誤してたらこの形が……シンプルだけどちゃんとポップで、しかもアレンジはバンド・サウンドで、っていう曲が出てきて。こういうタイプはこれまでのリード・ソングで意外になかったので、新しい方向性という意味でも風通しが良くていいなと思いました」
towana「いままでの歌詞は上から俯瞰したものが多かったけど、今回は全体的に視点がすごく下がって〈日常〉とか〈生活〉を歌ってるから、〈僕〉にかかる力が強いなと思って。抽象的な部分が減って、歌詞がより等身大なんですよね」
kevin mitsunaga「“Look of Life”って、僕が中学生ぐらいの頃に聴いてたエヴァーグリーンな音楽を思い出すんです。それでどこか懐かしく感じたし、そういう曲がレーベルを変わって一枚目のフル・アルバムの表題曲っていうのは逆に新鮮だなと」

新しいfhánaの姿
今回の新曲のなかで、一聴して〈新しいfhána〉を感じるのが“city dream city”と“Matching Error”。ハチャメチャに弾けまくる前者と都会的な歌謡ポップとなった後者、いずれもとことんフレッシュなfhánaがいる。
佐藤「“city dream city”はもう時間がなかったからこうなった曲ですね(笑)。深く精査する時間もなく進めた結果、謎に歪でポップな曲が出来上がったっていう。取っ掛かりとしてはCreepy Nutsみたいな曲を作りたいなと。早口で、サビのリズムがジャージークラブみたいなイメージで作ってって、だけどAメロのコード進行にはRIP SLYMEっぽさも入ってて。あと、この前段階のサビは爽やかすぎたので、もうちょっと癖のあるコード進行に……って変えていったら〈これってindigo la Endの“夏夜のマジック”じゃん〉って感じになったけど、ここも時間がないしもうこれでいいやって(笑)。林(英樹)君の歌詞も一晩で作ったヤケクソ感が刻み込まれてて勢いがあっていいし、こういう速くてキッチュな曲ってtowanaの声に合うんですよね。それでどんどん化けていって、最終的に〈めちゃめちゃいいじゃん!〉って」
kevin「編曲は、〈ノリノリでカッコよくしてください〉っていうシンプルなオーダーをもらって(笑)。じゃあ思いっきり打ち込みのクラブ・サウンドっぽいアプローチにしようってことで、こうなりました」
towana「私のところに歌詞がきたのはレコーディングの当日で。でも、練習する時間があったらこういう歌にはなってなかった気がするので、結果、楽しい曲になってよかったです(笑)」
kevin「“Matching Error”はひと昔前の歌謡曲感を狙ったりしてます。僕は基本的に明るくて祝祭感のある曲が好きで、マイナー調の曲ってほぼ作ったことがなかったんですけど、けっこう気に入ったのが出来たなっていう。こういうポップだけどちょっと毒もあるみたいな曲はfhánaにはなかったと思うので、だいぶ新鮮に聴いてもらえるんじゃないかと思います」
佐藤「林君の歌詞もちょっと毒気があって、マッチングアプリを皮肉ってるような内容で。データ上の人たちの出会い、その虚しさみたいなことがテーマになってますね」
その先に未来がある
それら新曲群の合間に“Runaway World”以降の既発曲も配しながら、アルバムはいよいよラストの2曲――歌と共に生きるtowanaの人生観が滲んだような“風になって”と、ストリングスを伴った室内楽的なワルツ“waltz for lily”へ。全12曲から成る物語は〈Life〉の意味合いを〈日常〉〈生活〉から〈人生〉〈生命〉へとスライドさせていく。
佐藤「“風になって”の仮タイトルは〈バンド〉でした(笑)。『ぼっち・ざ・ろっく!』の曲みたいなものをイメージして、ギターのレコーディングのときはHoneyWorksの中西さんにthe band apartの曲を参考に送ったりしました。作詞はtowanaなんですけど、すごく良くて。ベースにはいつもらしい孤独感がありつつ、後半では死生観まで達しててこれはすごいぞと。最後の“waltz for lily”と近しい世界観を感じたので、こうやって2曲を並べたインデックスになりました」
towana「ここでは〈私なりのLook of Life〉を書いてみようと。すごく明るくて爽やかな曲だけど、そこにちょっと切ない歌詞を乗せるっていうのをやってみたくて、あと〈軽やか〉もテーマだったかな。〈生まれて生きている理由/分からなくていいんだって/強いて言うなら/夕焼けが綺麗/風が気持ちいい/そんなところ〉って部分を最初に書いたんですけど、そういうことをこのタイミングのこのアルバムで書けてよかったなって思います。この間の先行試聴会で改めてじっくり聴いたら自然に涙が出てきて、もしかしたらいい歌詞が書けたのかもしれない、ってそこで初めて思いましたね」
佐藤「“waltz for lily”はフルサイズを作ったらうっかり壮大になっちゃって。こういう3拍子、8分の6拍子の曲でのストリングス・アレンジって何をやったらいいかわからなくて(笑)、完成まで苦労しました。そういうサウンドなので、歌詞もこの曲だけは俯瞰の視点で神様への祈りみたいな感じがいいかなと。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』(87年)っていうアニメーション映画があるんですけど、林君にはそのラストのシークエンスのような感じで歌詞を書いてくださいって伝えました。現在を生きる人々だけじゃなくて、過去にこの土地や街で紡がれてきた生活や文化、歴史みたいなもの……生まれて死んでを繰り返す流れの同一線上に自分たちがいて、その先に未来がある。そのすべての人たちに祝福があらんことを、みたいな祈り――“waltz for lily”はそういう曲ですね」
今回は収録された12曲すべてのMVも制作。それも全曲に等しく鮮やかな彩りを与えられたという自信があるからこそだろう。
towana「いい曲しか入ってない。単純に好きなアルバムが出来た嬉しさがあります」
kevin「メジャー・デビューから10年以上やってきたなかで、ファンの皆さんがfhánaに持ってるイメージからいい意味で逸脱した、変化を楽しんでもらえるアルバムになったんじゃないかと思いますね」
佐藤「fhánaがこれまでに積み重ねてきたこと、楽曲提供も含めて外で経験させてもらったこともちゃんと今回の新曲にフィードバックされて、いい形で結実できてよかったなあと。メンバーそれぞれの個性もちゃんと出てるし、ほんとに〈fhána〉っていう感じのアルバムが出来たなって思いますね」
参加ミュージシャンの関連作を一部紹介。
左から、HoneyWorksの2023年作『ねぇ、好きって痛いよ。~告白実行委員会キャラクターソング集~』(MusicRay'n)、インナージャーニーのニューEP『はごろも』(鶴見river)、XIIXの2023年作『XIIX』(トイズファクトリー)
fhánaの近作を紹介。
左から、2022年作『Cipher』、10周年記念ベスト盤『There Is The Light』(共にLantis)、2023年のシングル“Runaway World”、同年のEP『Beautiful Dreamer』(共にコロムビア)
さまざまに広がっていく佐藤純一とNEW WORLD LINEの動きにも注目!
fhánaのサウンド・プロデューサー/コンポーザーとしての活躍はもちろん、2023年7月からは所属プロダクションであるNEW WORLD LINEの代表も務めている佐藤純一。その手腕は広く外部からも乞われてきたもので、アニメソングの世界を中心に数多くの作曲/編曲ワークスが残されてきた。ここ数年だけでも伊藤美来の“Good Song”やスタァライト九九組の“私たちはもう舞台の上”、内田真礼の“聴こえる?”、三森すずこの“鈴がなる日”、そしてtowanaのTowana名義でのソロ曲“ベール”に至るまで印象的な楽曲が多く、今年はi☆Risのシングル“White Lyrical Kingdom”や角巻わための“Beautiful Circle”、麻倉ももの“Wonderland”を手掛けている。そんななか去る10月には、より自由なアウトプットの場としてNEW WORLD LINEが同名のレーベルを始動し、同社に属するnonocの新曲“ドアの向こう”が配信されたばかり。こちらの動きにも期待しておきたい。 *轟ひろみ
佐藤純一の手掛けた楽曲を含む近作を一部紹介。
左から、伊藤美来の2020年作『Rhythmic Flavor』(コロムビア)、マジカル・パンチラインの2020年作『MAGiCAL SUPERMARKET』(DREAMUSIC)、Morfonicaの2023年作『QUINTET』(ブシロードミュージック)、三森すずこのベスト盤『RPB』、内田真礼の2024年作『TOKYO-BYAKUYA』(共にポニーキャニオン)、i☆Risの2024年のシングル『White Lyrical Kingdom/キセキ-ノ-フィラメント』(DIVEIIentertainment)、角巻わための2024年作『Hop Step Sheep』(カバー)、麻倉ももの2024年作『ChouChou』(MusicRay'n)
