再評価されていない方の80年代音楽
――それにしても、結成から37年という長い時間が経った今、どういった経緯で今回のアルバムを作ろうという話になったんでしょうか? 2015年に、沖野さんのソロアルバム『F-A-R』がリリースされた時にお2人で対談してらっしゃいますけど、その時にまた一緒にやりたいね、という話をしていたのが印象的だったので、もしかしてそこから準備していたのかな、と思ったりもしたんですが。
沖野「たしかにそんな話してましたね。けど、それが直接的なきっかけというわけでもなくて。2021年の小山田くんの炎上騒動のとき、久々に連絡をしてみようと思ってメールを入れたんです。そこからちょこちょこやり取りするようになったのが前段階としてあるんです」
小山田「その後、さっき話に出たボックスセットを沖野くんがリリースしたとき、VELLUDOの未発表曲も送ってくれたよね」
沖野「そうそう。2022年に、13歳から録り貯めていたデモを集めたボックスセット(『Lonely Souls vol. 1 / vol. 2 / vol. 3』)を出した時、VELLUDOの音源も聴き直してみたんです。そしたら、〈今聴くと素直にカッコいいな〉と思えたんですよ。自分で言うのもなんですけど、案外ちゃんとした曲を作ってたんだな、と(笑)。その時は小山田くんもそこまで忙しそうじゃなかったし、〈よかったらまた一緒にバンドやらない?〉って声をかけたんです」
小山田「僕も、〈VELLUDO、今聴くとめちゃくちゃ良いな〉と思ったんです。今こういう音楽性って一番忘れられているっていうか、世界的に見ても稀な存在な気がして。でも、自分が思春期の頃に大きな影響を受けた音楽なので、結構こだわりがあって。
やっぱり、おじさんになってくると、そういうのを素直な気持ちでやりたいという気持ちが出てくるんですよね。大幅に変えたりとかは全然していないけど、色々な音楽を体験した上で改めてあの頃の曲を再構築したら、すごく良くなりそうだなという予感がしたんです」
――今おっしゃった通り、たしかにネオサイケ的なものって、ポップミュージックの前線ではかなり隅の方に追いやられている感じがしないでもないですね。
小山田「長いこと80sリバイバルが続いている感じがあるけど、そっちは〈再評価されていない方の80年代〉になってしまっているというか、全然顧みられている感じがしなくて。エコバニも活動を続けているけど、今はイギリス以外ではどちらかといえば不遇な印象で……。80年代半ばの頃はザ・キュアーとかU2に並ぶどころか、それ以上の人気がありましたからね。あの時期に出てきたバンドって、アメリカで成功できたかどうかが、その後の活動の大きな分かれ道になった気がします」
沖野「当時、エコバニのイアン・マカロックはアイドル的な人気があったよね。80年代の少女漫画で、イアンをモデルにした美少年が登場したりとか。今では想像できないかもしれないけど」
小山田「シューゲイザーがこんなに若い子の間で人気なのに、そのルーツにあたるはずのネオサイケ系の音楽がこんなに不遇なのって、よくよく考えると不思議ですよ。実際、コクトー・ツインズやジーザス&メリーチェインあたりのシューゲイザールーツ組と比べても、エコバニの今の人気度といえば……。けど、そんなエコバニでもまだ良い方で、同じリバプールのザ・ティアドロップ・エクスプローズとかになると……」
沖野「いやあ、本当に聴かれている感じがしない(苦笑)」
――数十年間格安で叩き売られているイメージです。
小山田「そうでしょ。イアンはじめ、ジュリアン・コープとかピート・ワイリー、ビル・ドラモンドを含めたあの辺のリバプールのシーンは、本当はとても面白いんだけど」
――後にThe KLFへと続いていく系譜ですね。セックス・ピストルズとマルコム・マクラーレン、ファクトリーとトニー・ウィルソン……みたいな形で、歴史的な関心がもっと寄せられてもいいような気がします。
小山田「そうなんだよね。他にもリバプール以外だと、マンチェスターのカメレオンズとかも最高。彼らのレコードはなぜか高騰していて手に入りづらくて……って、ついおじさんっぽい話になっちゃうんだけど(笑)。世代的に、それくらい思い入れがあるんですよ」
――ちょっとした世代の差でも、どのバンドを重要視するかっていうのには大きな違いがありますよね。
小山田「わかります。僕より少し上の世代はニューウェーブ〜ポストパンクのオリジネーターを信奉していて、反対に少し下の世代だとマッドチェスターのブームを思春期に体験していて。ネオサイケを思春期に体験した僕らっていうのは、その中間ですね(笑)」
――同時代のUSのオルタナ系は聴いていましたか?
沖野「あんまり聴いていなかったかなあ」
小山田「体感的に、自分の周りのインディーズ好きの9割はUK派だった気がします。R.E.M.とかレイン・パレードみたいに、カレッジチャートで人気があったものの一部は聴いてはいたけど、USはヒットチャート系がメインで、インディーズの情報がほとんど入ってこなかったっていうのがあるんじゃないかな」