Giovanni Sollima
チェロを通して宇宙を視る――ジャンルを超えた音楽によるメッセージ
チェロ奏者にとってのアンセムともいえる“チェロよ、歌え!”の作曲者として、また劇場や聴衆を巻き込みながらその場にいる人全員で音楽を作りあげる〈100チェロ〉をはじめ奇想天外なプロジェクトを次々と生み出すクリエイターとして、そしてもちろん、当代一流のチェリストとして。
2025年3月、約1年ぶりの来日を果たすジョヴァンニ・ソッリマ。クラシック音楽マニアから伝統音楽の愛好家まで、ジャンルを超えて全世界の音楽ファンの間にその名を轟かす稀有な存在だ。ヨーヨー・マを筆頭に、プロ奏者からも熱狂的な支持を受けるミュージシャンズ・ミュージシャンでもある。
ここ数年は来日公演も精力的に行い、日本国内の音楽ファンにもその魅力は広く浸透した感がある。特に、昨年4月に横浜みなとみらいホールで行われ、ソリストとして参加した日本フィルの定期演奏会は、聴衆に強烈なインパクトを残し、伝説ともいえる公演となったので、その時の話を少しだけ紹介したい。
原田慶太楼の指揮で臨んだドヴォルジャークのコンチェルト。その第一楽章の途中でファゴット奏者に楽器のトラブルが起き、楽章が終わると同時に対応のために舞台裏に下がってしまう。そこで、奏者が戻るまでの時間を埋めたのが、機転を利かせたソッリマのソロ・パフォーマンスだった。じっくりと歌い上げるメロディアスな演奏からビートの利いたアグレッシブなプレイまで、ソッリマの魅力を凝縮したような熱演は会場の空気をガラリと変え、オーケストラの演奏が中断されてしまった不安をすっかり吹き飛ばしてしまったのだ(ファゴット奏者が帰還した際、原田が「まだドヴォルジャークですからね」と会場の笑いを誘う一幕も)。もちろんドヴォルジャークもおおいに盛り上がったのは言うまでもない。
ジョヴァンニ・ソッリマはイタリア・シチリア島の生まれ。家は音楽一家で、幼い頃からチェロに親しむほか、美術や演劇、読書にものめり込むなど好奇心が旺盛だったという。史上最年少でパレルモ音楽院を卒業し、その後はシュトゥットガルト音楽大学とモーツァルテウム音楽大学でチェロをアントニオ・ヤニグロに、作曲をミルコ・ケレメンに学んだ。中でもヤニグロは「人生の師匠」と呼ぶほど影響を受けたと本人は語っている。
伝統音楽ファンにとってソッリマを知るきっかけになったかもしれない作品集『ナチュラル・ソングブック』は、彼が訪れた国や地域で聴いた地元の民俗音楽を書きとめ、ソッリマ流にまとめたもの。さまざまな土地の文化や風土を楽しみ、学ぶことは、自らの好奇心があってこそのものだが、加えてヤニグロの教えの影響も大きいのだという。
「太古から文化の十字路であり、多様な民族が行き来したシチリアの、失われた記憶がほしい」
これは、来年の来日公演に合わせて上映会が予定されているドキュメンタリー映画「氷のチェロ物語」の中で、ソッリマがつぶやく言葉だ。ソッリマの好奇心は故郷のシチリアに端を発し、チェロという唯一無二のパートナーを触媒として、地球全体そして宇宙にまで広がっていく。そんな彼が地球温暖化に対するメッセージも込めて取り組んだプロジェクトが〈氷で作ったチェロを演奏するツアーを行う〉という驚くべきもの。本作ではアルプスの氷河でアメリカ人彫刻家により製作された氷のチェロを、アルプスの麓トレントからシチリアまでツアーするソッリマとスタッフの奮闘を記録している。チェロが溶けてしまわないよう全力を尽くすスタッフたち、そして氷の中に生命の源を探るかのようなソッリマの演奏は本作のハイライトである。
さて、来日公演の大きな目玉は、プロ・アマ問わず100人のチェリストがソッリマとともにひとつのステージで音楽を作りあげるプロジェクト〈100チェロ・コンサート「チェロよ、歌え!」〉だ。
これは2012年に彼が友人であるチェリスト/作曲家のエンリコ・メロッツィとともに立ち上げたもので、もともとは18世紀に建てられたローマの由緒ある劇場が閉鎖されそうになっているのを救うために始めたもの。その後もさまざまな場所で行われ、日本では2019年にすみだトリフォニーホールで初めて開催された。今回は会場をフェニーチェ堺に移して行われる。
前回は3日間の練習期間を経た参加者たちがソッリマとメロッツィに導かれ、“チェロよ、歌え!”を筆頭に、ヘンデルからディープ・パープルまで、まさにジャンルを問わない痛快なアンサンブルが繰り広げられた。当日のレパートリーは参加者との練習やコミュニケーションの様子を見ながら決めるというが、今回も楽しみだ。
ほかにもバッハの無伴奏チェロ組曲をメインに据えたソロ公演と、読売日本交響楽団との共演が予定されている。ジョヴァンニ・ソッリマの魅力を余すことなく堪能できる来日となりそうだ。
LIVE INFORMATION
ジョヴァンニ・ソッリマ 無伴奏チェロ・コンサート2025
〈Giovanni Sollima plays BACH!〉
2025年3月25日(火)東京・浜離宮朝日ホール
開場/開演:18:30/19:00
2025年3月26日(水)東京・紀尾井ホール
開場/開演:18:30/19:00
読売日本交響楽団
横浜マチネーシリーズ
2025年3月20日(木・祝)神奈川・横浜みなとみらいホール 大ホール
開場/開演:13:30/14:00
土曜/日曜マチネーシリーズ
2025年3月22日(土)東京・初台 東京オペラシティコンサートホール
開演:14:00
2025年3月23日(日)東京・初台 東京オペラシティコンサートホール
開演:14:00
フェニーチェ堺5周年記念特別企画
100チェロ・コンサート「チェロよ、歌え!」
2025年3月30日(日)フェニーチェ堺 大ホール
開場/開演:14:00/15:00
各公演の詳細はこちら:https://plankton.co.jp/sollima/index.html