「100チェロ」で来日するスーパー・チェリストのオリジナル曲集!パティ・スミスとの共演曲も!

 舞台上に所狭しと立ち並んだ、100本のチェロ。一線級のプロフェッショナルからまだ経験の浅い子どもまで、世代もバックグラウンドも異なるさまざまなチェロ奏者たちが、一つの壮大なサウンドスケープを織り上げていく。天衣無縫に羽ばたく主旋律と、豊かに響きわたる通奏低音。膨大なピッツィカートが空気を震わし、地鳴りのような足踏みが聴き手を駆り立てる。インターネットで目にした「100チェロ」の映像は、自分のなかにある弦楽器アンサンブルの概念を一新するほどフレッシュかつ衝撃的だった。

 2012年、ローマにある古い劇場の閉鎖に反対するアーティスト運動から生まれたこの「100チェロ」プロジェクト。企画の立案者であり、演奏家100人を率いて情熱的な演奏を披露している中心人物が、ジョヴァンニ・ソッリマだ。1962年、イタリアのシチリア島生まれ。3つの音楽大学でチェロと作曲法を学び、あのヨーヨー・マをして「彼の前では、僕はまるで子猫のようなもの」と言わしめた超絶技巧の持ち主で、クラシックの世界から映画音楽、ロックやワールド・ミュージックとの共演まで、ジャンルを超えた創作を続けている。今年8月にはついに「100チェロ」の日本初公演が実現。伝統の枠に囚われない“自由と解放の響き”を心待ちにしている人も多いだろう。

GIOVANNI SOLLIMA WE WERE TREES PLANKTON(2019)

 本作『We Were Trees』は、そんな稀代の表現者が2008年に発表した傑作アルバム(日本初リリース)。2本のチェロと小編成ストリングスを駆使した楽曲は全編がソッリマの書き下ろしで、彼の繊細かつエモーショナルな演奏と作曲家的な個性がバランスよく堪能できる一枚だ。オープニングを飾るのは、ピーター・グリーナウェイ監督の映画『レンブラントの夜警』(2007年)の劇中曲としても名高い《チェロよ歌え!》。たゆたうような音の波の合間から次第に立ち上がり、やがて高らかに鳴り響くメロディが、このうえなくドラマティックで美しい。

 この代表曲に限らずソッリマの音楽を聴いて驚かされるのは、相反するモチーフや技法が1つの作品内で矛盾なく溶けあっていることだ。古典的な構成と、アヴァンギャルドな不協和音。ロマンチックな感情表現と、ミニマルな反復。優美な音色と、野蛮すれすれの躍動感──。

 たとえば、敬愛するイタリア人作曲家/チェロ奏者のルイジ・ボッケリーニに捧げた《L.B.ファイル》。4つの曲想からなるこの組曲では、どこか古楽にも似た妙なる調べと、西アフリカのグリオを思わせる節回しの朗読が響き合って効果を挙げている。また約14分に及ぶ大曲《ツリー・ラーガ・ソング》ではさまざまな奏法が万華鏡のように展開し、さながらインドのラーガのようだ。極めつけは本作のハイライト、6曲編成の《ホエン・ウィ・ワー・ツリー》。身近な「木」への考察を通して、母なる地球への祈りを歌いあげるこの大曲では、バロックから現代音楽まで、ソッリマという演奏家を通して身体化されたボキャブラリーが惜しげもなく注ぎこまれている。

 6曲目の小品《イエット・キャン・アイ・ヒア》では、これまでたびたび共演してきた盟友パティ・スミスが、作詞・歌を担当。憂いをおびた彼女の声と、それに寄り添うソッリマの限りなく深い音色をぜひ聴いてみてほしい。

 


LIVE INFORMATION

ジョヴァンニ・ソッリマ 100チェロコンサート
○8/12(月・祝)17:15開場/18:00開演
会場:すみだトリフォニーホール 大ホール
演奏予定曲:ベートーヴェン 交響曲第九番
J.S.バッハ 無伴奏チェロ組曲第三番
ヘンデル 組曲第11番ニ短調 サラバンド
世界を売った男(デヴィッド・ボウイ)
ハレルヤ(レナード・コーエン)
タランテッラ(イタリア南部の舞踏曲)
チェロよ、歌え!(ジョヴァンニ・ソッリマ)
サウンド・オブ・フォーリング・ウォールズ(メロッツィ)