ソウル・ミュージックの系譜を真っ当に受け継ぐ才覚と、現代的なビートメイカーとしての嗅覚を兼ね備えたシンガー・ソングライター、MARTER。過去2枚のソロ作で、国内外のリスナーを大いに魅了してきた彼だが、ニュー・アルバム『SONGS OF FOUR SEASONS』は、その名をさらに広い地平へと届けることになるだろう。これまで同様に作詞/作曲からアレンジ、演奏までを一手に担いつつ、宮崎大(ギター)、吉村勇作(キーボード/ホーン)、Kan Sano(キーボード)のサポートを得て完成したという本作では、ソウルの文脈に留まらない多種多様な音楽性を吸収&血肉化。壮大でありながら地に足の着いた世界を作り上げている。
「ここ数年、MARTER & YONY、WESTLAND、QUIETWOODS、Cyborg Sessionなど、さまざまなサイド・プロジェクトを展開していたんですが、そこでやっていた音楽性がそのまま反映されたのかなと思っています。ジャズ、ダブ、レゲエ、ソウル/R&B、フォーク・ロックなど、いろいろなジャンルのサウンドを自分のフィルターを通してまとめてみました」。
音のヴァリエーションを広げる一方、ヴォーカルをより前面に押し出しているのも特色で、普遍的なポップ・ミュージックとして享受できる風格を感じる。1曲を除いて日本語詞であることもポピュラリティーに貢献しているだろう。
「前作が出てから、よりシンガーとして自分を意識するようになってきていたので、歌が前に出てきたのは自然な流れだし、わかりやすくストレートに心に響く作品を今回多少意識したかもしれないです。言葉に関しては、2012年から日本全国でライヴをやってきて、以前より日本語で伝えたいという気持ちが強くなったのが大きいです。あと、日本語で歌うと、海外でも逆にエキゾティックで良いと喜ばれることもあるんですよ。まあ、今後も英語と日本語両方やっていきたいですけどね」。
ヴォーカル・オリエンテッドとさえ形容できるアルバムだが、もちろん彼のビート探求者としての側面も健在だ。“宇宙の海”などの先鋭的なファンク・チューンもさることながら、ビートを抑えたメロウな楽曲にも豊潤なグルーヴが脈打っているところに、ある種の洗練と凄みを感じずにはいられない。
「そこは長年のベーシスト、ビートメイカーとしての経験と、ダンサーとしての経験も生きているかと。でも、やはり基本はいまでもメトロノームで練習です。基本の拍が体内に完全に入っているからこそ、そこから少しずらした絶妙なヒップホップのビートなどを打てると思うので」。
メロウ・ソウルの古典を換骨奪胎してレゲエ化したような“skankingroove”など言及したいサウンドばかりなのだが、特筆すべき点としてはやはり、アコースティックなアプローチやバラード~弾き語り的なナンバーの存在が挙げられるだろう。とは言え、オーセンティックなフォーク志向という印象は受けないし、静謐な曲であっても自然音やエレクトロニクスが配されているのがおもしろい。影響を受けたアーティストを訊くと、こんな答えが返ってきた。
「ボン・イヴェールのあの深いアコースティック・フォークなサウンドに、かなりはまっていたので影響を受けたと思います。それからジェイムズ・ブレイクは自分よりかなり歳下なんですが、よく引き合いに出されるので聴いてみたら、超かっこよくてモロに影響を受けました(笑)」。
「今回は自然を意識した曲が多くなってます。最近、聴いてくれる人たちを、自然の美しさ、偉大さ、尊厳などに気付く方向にリードすることに貢献できたら本望です」と語られる本作には、ミナス・サウンドにも通じるピュアネスや精神性が感じ取れる。その清廉な響きに、誰しもが胸を揺さぶられるはずだ。
▼関連作品
左から、MARTERの2012年作『FINDING & SEARCHING』(Jazzy Sport)、MARTERが参加した岡野弘幹の2014年作『.JP』(AMBIENCE)、Kan Sanoの2014年作『2.0.1.1.』(origami)
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