CD2枚組、全17曲90分の大作。パンデミックの世界を大局的な史観も交えて描いたドキュメンタリー映画のようであり、楽曲の主人公やその目線はあくまでも個人として描かれ、日記を読んでいるような感覚もある。この世の不条理に対する怒りや諦念も滲ませつつ、石橋英子をはじめとした長い付き合いの盟友たちと、Kan Sano、石若駿、大比良瑞希といった彼をリスペクトする若手ミュージシャンが多数集った本作に通底しているのは、あくまで慈しみの目線だ。ショーロクラブの沢田穣治が手掛けるストリングスが全体のムードを規定しつつ、その歌声はフォークの親密さとソウルやジャズ・ヴォーカルの気品を併せ持ち、スタンダード感のある“if you just smile(もし君が微笑んだら)”は特に素晴らしい。文句なく傑作。