色鮮やかなB・Jの勇姿がカラー原稿で甦る! 大名編「友よいずこ」を無修正の生原稿状態で掲載!

 昨年刊行され高額本としては異例の1万部を超える大ヒットとなっている「ブラック・ジャック・ミッシング・ピーシズ」の姉妹編と言える作品集が本作だ。現存する貴重なカラー原稿を使用した復刻。単行本化の際に結構な改変をする手塚だが、雑誌掲載時の原稿での収録が叶ったファン待望の企画といえる。BJの出自にまつわるエピソードをあますことなく選出して収録しているところもファンにはたまらない。なかでも手塚の鬼気迫るエネルギーが詰まった名編「友よいずこ」が無修正の生原稿状態で掲載になったのも大事件だ。さらに発掘された未使用ネーム、未発表原稿、アニメ作品絵コンテ、直筆のシノプシス(要約)原稿など貴重な素材も多数収録している。

手塚治虫 『ブラック・ジャック ヒストリカル・カラー・ピーシズ』 立東舎(2024)

 連載を開始してすぐに大人気となった訳ではなく、当時は劇画ブーム、大人向け漫画の台頭があり〈時流に遅れた作家〉として見られていた頃。事実、第1話「医者はどこだ!」は単色でのスタート。掲載ページも巻頭どころか雑誌の真ん中あたり。〈手塚治虫ワンマン劇場〉〈まんが家生活30周年記念新連載!!〉という見出しの大書くらいが推されていた点と言える。まずは4~5回程度、読み切りで短期連載をしていただこう、といった編集サイドの考えもあったらしい。が、この第一話がめちゃくちゃに面白い。医師免許を持たない名医である以上に〈勧善懲悪〉であることが本作の魅力だ。悪い奴を徹底的に懲らしめる、そこに社会的な立場による優劣はない。この世界観が読者のハートをガッチリ掴んだ。続く第2話「海のストレンジャー」、第3話「ミユキとベン」まで単色であったが人気爆発! いよいよ第4話「アナフィラキシー」で初の巻頭カラー作品となった。この記念すべき見開きカラー扉絵。迫力あるジャンボジェット機の絵。感慨深いものがある。漫画の歴史を創ってきた大作家が少年誌を舞台に、劇画ブームの呪縛から解き放たれ、自分しか描けないであろう医療漫画という主題を得て〈おもいっきり自由に描いた作品〉。だからこそ時代を越えて今も我々をとりこにしてくれているのでは、と考えている。