2024年にデビューから60周年を迎え、「サイモン&ガーファンクル完全版」や特集誌「アコースティック・ギター・マガジン」が刊行され、さらに2人が久々に再会するなど、何かとサイモン&ガーファンクルが話題になっている。そこで今回、彼らの6枚のオリジナルアルバムをレビュー。1964~1970年に活動した2人の音楽と軌跡を振り返った。 *Mikiki編集部
Wednesday Morning, 3 A.M./水曜の朝、午前3時(1964年)
by 天野龍太郎
学生時代にトム&ジェリーとしてロックンロールをやっていたNYCの幼馴染2人が心機一転、フォークデュオのサイモン&ガーファンクルとして再始動。ボブ・ディランの登場でフォークリバイバルが加熱する最中、1964年にリリースしたデビューアルバムが本作だ。しかし、まったく売れずに2人はまたバラバラになってしまった、という逸話は今や伝説のように思える。彼らが再び活動を始めたのは、勝手に制作された“The Sound Of Silence”の電化バージョンがヒットした1966年になってから。
アルバムのプロデューサーは、ディランも手がけていたトム・ウィルソンである。ロックの要素はなく、2人の歌とギターを中心にした純然たるアコースティックフォーク作品で、7曲がカバーである。冒頭の“You Can Tell The World”や“Go Tell It On The Mountain”のようなアップテンポな曲や、ポールがバンジョーを弾く“Last Night I Had The Strangest Dream”では、その後に独自の透徹した音楽性に行きつく2人の姿とは異なる、勢いに満ちた瑞々しくピュアで素朴、牧歌的な歌を聴かせる。
とはいえ、“Benedictus”から名曲“The Sound Of Silence”に至るA面の終盤では、サイモン&ガーファンクルにしか作れない霞がかったような、揺蕩うハーモニーのフォークサウンドが展開される。この幽玄でアンビエントフォーク的、美しくもどこかこの世ならぬ不気味さを感じさせる音世界は、サイモン&ガーファンクルの作品でしか聴けないものだ。
本作が売れなかったのは、フォークブームのただ中で、あまりにも早すぎた、あるいはユニークすぎたからかもしれない。フォークやジャズのアンビエント解釈が進む今こそ聴きなおすべきだろう。
Sounds Of Silence/サウンド・オブ・サイレンス(1966年)
by 小田淳治
『Sounds Of Silence』は名作か――こういう機会でもなければ考えない問いだ。そんな問いが生まれる理由として、本作が歪な経緯で生まれながらも、彼らのその後の運命を大いに左右する作品となったためだ。
1965年、前作収録の“The Sound Of Silence”にリアレンジが施されたのちシングルリリースされると、これが大ヒット。オリジナルにエレキギターやドラムなどが加えられ、フォークロック調に生まれ変わった同楽曲の成功から本作は誕生している。成功の余波を逃すまいと急遽制作されたからか、ポールの1stソロアルバム(『The Paul Simon Songbook』)からのセルフカバーなども収められており、全編を貫くテーマなるものはほぼ皆無と言っていいかもしれない。
だが、本作は時代の転換期を物語る重要作でもある。言わずもがな、シングル版“The Sound Of Silence”のヒットの背景には、エレクトリックサウンドへと転向したボブ・ディランの影響がある。この時期のディランとサイモン&ガーファンクルを繋ぐ2人のキーマン、トム・ウィルソンとボブ・ジョンストンの偉大さを痛感するとともに、フォークロックの作法が馴染んだ“Blessed”“Richard Cory”あたりを聴くたび、単なるフォークデュオから脱皮したことが何よりの成果とも言えそうだ。
アルバムを貫くテーマはないと述べたが、全くまとまりがないアルバムではない。ポールが紡ぐ言葉には20代の彼の心情や性格が散りばめられていて、時にユーモラスに、時に反語的な意味合いで我々に届けられる。そうした歪なピースを拾い集めて、少々無理矢理『Sounds Of Silence』という額縁にはめ込んで完成した本作は、この先の彼らの道を明るく照らし出した〈明作〉と呼んでいいのではないだろうか。