Parsley, Sage, Rosemary And Thyme/パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム(1966年)
by 谷口 雄
デビュー作の『Wednesday Morning, 3 A.M.』はアコースティック楽器のみのフォークアルバム、2枚目の『Sounds Of Silence』は本人たちの預かり知らぬところでエレクトリック化。となると、『Parsley, Sage, Rosemary And Thyme』はサイモンとガーファンクルが初めて真正面からフォークロックに取り組んだアルバムということになる。冒頭の“Scarborough Fair / Canticle”は、ポール・サイモンがイギリス滞在時にレパートリーに加えたと言われるスコットランド民謡に、『The Paul Simon Songbook』にも収録された反戦歌“The Side Of Hill”を引用。更にアート・ガーファンクルが対位法的にメロディを重ね、オーバーダビングされたボーカルとハープシコードが幻惑的な世界を作り出している。
収録曲のうち、3曲は『The Paul Simon Songbook』のセルフカバーで、サイモンのイギリス時代の総決算的なアルバムともいえる。そのうちの1曲である“Patterns”では、最初のヴァースでアコースティックギターが姿を消し、ボーカルの他にはパーカッションとベースのみという挑戦的な編成に。“The 59th Street Bridge Song (Feelin’ Groovy)”では、デイヴ・ブルーベック・カルテットのリズムセクションでお馴染みのユージン・ライトとジョー・モレロを起用するなど、従来のフォークの枠組みから飛躍しようとする試みが随所にみられる。ボブ・ディランを皮肉るような“A Simple Desultory Philippic”は、その決意の表れなのかもしれない。
サイモンが1972年にローリング・ストーン誌のインタビューで語ったところによれば、本作は「コロムビア・レコードで初めての、8トラックレコーダーを使ったレコーディング」とのこと。様々なアイデアを具現化できるようになったことで、フォークやフォークロックの枠を超え、ポップスとしての完成度も非常に高い作品となった。
The Graduate/卒業 - オリジナル・サウンドトラック(1968年)
by 桑原シロー
サイモン&ガーファンクルといえば〈卒業〉の人。たしかにある時期までそんな認識が広く定着していたように思う。それほど映画「卒業」が描こうとした主題と、主題歌に用いられた“The Sound Of Silence”の内容のダイレクトな結び付きには目を瞠るものがあって、世間に多大なインパクトを与えたのだった。
「イージー・ライダー」の“Born To Be Wild”や、「明日に向って撃て!」の“Raindrops Keep Fallin’ On My Head”などと並び、60年代後半に台頭した〈アメリカンニューシネマ〉系作品を象徴する楽曲として知られる“The Sound Of Silence”。無軌道な若いカップルが社会の荒波へと漕ぎ出していく様子をとらえたあまりに有名なラストシーンに登場すると、これが既成曲だとは思えないほど画面とのみごとな合致ぶりを見せ、物語の奥行きを生み出す重要な役割を果たした。そんな本映画のサウンドトラックは、S&G楽曲と、劇伴を務めたデイヴ・グルーシンのスコアが半々という構成となっていて、彼らのオリジナルアルバムとしてカウントすることにいささか疑問を抱く点もあるが、作品の影響度の高さなどを考慮するとやはり外すわけにはいかないという思いに至ったりもする、そんな特別な1枚。
バージョン違いも含めてS&Gがタッチしているのは計8曲。既成曲が多くなっている理由は、“Scarborough Fair”や“April Come She Will”などからさまざまなインスピレーションを受けた監督のマイク・ニコルズの意向によるもの(映画用に“Overs”や“Punky’s Dilemma”といった新曲を用意したものの、あえなく却下されたという事情もある)。唯一監督のお眼鏡にかなった新曲は、〈ミセス・ルーズベルト〉という仮題が付けられていた“Mrs. Robinson”だ。1968年に4月にシングルリリースされ、S&G史を代表するヒットとなる本曲のプロトタイプとも言えるバージョンがここに収められているのだが、これがなかなかにイカす仕上がりなのだ。バージョン1、2共に、ボ・ディドリー・ビートふうのワイルドなアコギカッティングで押し通していて、まずそのプリミティブな勢いがやけにカッコいい。そこにポップで洗練されたポールとアーティのコーラスが乗っかることで立ち上がってくる唯一無二な色彩感。他のフォークロックグループには持ち得ない豊饒な音楽性のアピールをしっかりと成し遂げている実に素晴らしき小品である。
ところでS&G曲以外についても、実際のところ聴きものが少なくない。ちょうど映画音楽としてキャリアをスタートさせたばかりのグルーシンによるスコアは、ビッグバンド系のドリーミーなハリウッドサウンドやブルースナンバーなどけっこう多彩で、ヘンリー・マンシーニあたりが得意とするチャーミングなラテンナンバー“Sunporch Cha-Cha-Cha”、ハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスのマリアッチスタイルを手本とした“On The Strip”など、60年代米国産サントラ音楽に関心があるリスナーにとって大いに食指が動くだろうナンバーが散りばめられている。

