
ジャズトランペットの超新星、輝く音色でシエナ・ウインドと夢の共演
ジャズトランペッター、松井秀太郎のここ1、2年の活躍ぶりはすさまじいものがある。まだ25歳と若いが、輝かしい音色と歌心あふれる表現力でジャズ、クラシック、吹奏楽などのジャンルを行き来し、瞬く間に人気プレイヤーの仲間入りを果たした。まさに超新星。2025年6月7日には、幼少時から憧れていたプロ吹奏楽団、シエナ・ウインド・オーケストラとの夢の共演が実現する。松井に現況や共演への意気込みを聞いた。
ジャズから吹奏楽、クラシックまで幅広いジャンルでの演奏活動をこなし、多忙な生活を送る。2025年2月から4月にかけては、カルテットを率いて全国ツアーも敢行した。
「全部好きなことなので大変な感じはありません。ジャズの時は曲を書き、クラシックの時はオーケストラとやるなど、毎日が全然違います。自分の演奏方法はジャンルごとに違いますが、自分がどういう音で吹きたいのかが重要で考え方は同じです。ジャズやクラシックの境目は感じません」
松井の最大の特徴は、ジャズの名トランペッター、クリフォード・ブラウンのようなまばゆいばかりに輝かしい音色である。それでいて人を包み込むような優しさを兼ね備える。
「唇が振動して音が出るという構造上、他楽器に比べ音色が楽器より奏者の奏法によって変化します。ですのでジャンルを超えて出したい音を出すことにとても適しています」
6月7日には、シエナ・ウインド・オーケストラと文京シビックホール(東京都文京区)で共演する。シエナは幼少時から憧れの楽団であり、松井の思い入れは強い。
「テレビ朝日『題名のない音楽会』で初めて知った吹奏楽団がシエナでした。トランペットを吹き始めたときからシエナに熱中し、憧れの存在でした。初共演となる今回はアルチュニアンのトランペット協奏曲をやります。高校時代はクラシックを音楽高校で勉強していましたが、当時から大好きな曲でした。フレーズも歌のようであり自分の解釈でできる曲が多い」
アルチュニアンのトランペット協奏曲は松井が高校生の時に何度か吹いた経験があり、高校の卒業試験でも演奏した。
「高3の終わりには国立音楽大学のジャズ専修に行くことが決まっていました。この協奏曲を吹く機会は卒業試験が最後だと思っていましたが、こんな形でまた演奏するとは思いませんでした。アルチュニアンの曲は民族音楽的なフレーズも多く、曲自体にジャズのようなエネルギーがあります」
もう一曲の共演作はサン=サーンスの“ダンス・マカブル(死の舞踏)”で、今回の公演では自ら編曲も手がける。
「この曲は自分のセカンドアルバムの表題曲ですが、今回の編曲はアルバムとは全くの別アレンジになります。カルテット版はメンバーの即興をフォーカスしましたが、今回は吹奏楽なので一度原曲に立ち戻り、自分の解釈で編曲する。曲が持つ物語性や世界観を大事にしつつ、管楽器のエネルギーが感じられる作品を目指し、吹奏楽の中で歌う感じを大事にしながら、作品として完成度を高めたい」
そもそも、クラシックや吹奏楽を学んでいた松井はなぜ大学でジャズ専修に進んだのか。
「どこの大学に行くか選んでいるとき、トランペット奏者の西村浩二さんの演奏を聴いてポップスがやりたくなりました。そこで、すごいミュージシャンが教えている国立音大のジャズ専修に進みました。大学ではトランペットの奥村晶さんとエリック・ミヤシロさん、トロンボーンの中川英二郎さんに教えていただきました。最初、自分がやりたいのはジャズでなくポップスで、楽器が上手くなるために入学したと言ったのですが、先生方も個人の表現を尊重してくれました」
大学でもう一人、大きな影響を受けたのがジャズピアニストの小曽根真だ。
「自分が大学1年生でまだ即興で演奏できなかった時、〈自分が吹きたいと思った音を吹くのが大事だ〉という小曽根さんの授業を受けジャズにはまっていきました。即興演奏に関わらず自分がどう吹きたいかという気持ちを一番大切にするようにしています」
若くして様々な分野で成功を収めている松井は、今後どのような方向に進むのか。
「ジャンル問わずに新しいことに挑戦し続けたいです。自分が見えない世界に行きたい。具体的にはオーケストラや吹奏楽のように、多くの人で一つの音楽をつくりたい。ジャズのビッグバンド、クラシックの大編成も興味深いです。もちろん、当初の夢だったポップス方面もいろいろやりたい。当面は自分の音楽をつくることがメインですが、自分の音をいかに音楽に吹き込むか考えるのも好きです。音楽ファーストです。ジャンルを越えることで自分の価値観も広がる。自分にとって、音楽をつくることが大事なのだと思います」
松井が語る言葉の節々からは、とにかく音楽が大好きであることが強く伝わる。天性の輝かしい音色で、これからさらに多くの人々を魅了するのは間違いない。
LIVE INFORMATION
シエナ・ウインド・オーケストラ 第57回定期演奏会 ~ジャズの新鋭 松井秀太郎を迎えて~
2025年6月7日(土)東京・文京シビックホール 大ホール
開場/開演:14:20/15:00
■出演
横山奏(指揮)
シエナ・ウインド・オーケストラ
松井秀太郎(トランペット)
■公演曲目
Awayday:A. ゴーブ
ドラゴンの年(2017年版):P. スパーク
トランペット協奏曲:A. アルチュニアン(上埜孝編曲)
Danse Macabre(死の舞踏):C. サン=サーンス(松井秀太郎編曲) ほか
※出演者および曲目は都合により変更になる場合がございます