『My Songs』から改めて振り返るスティングの名曲ヒストリー
久々のロック・アルバムとして受け止められた2016年作『57th & 9th』とそれに伴うワールド・ツアー(2017年に来日公演も実現した)に続き、第61回グラミー賞で〈最優秀レゲエ・アルバム〉部門を受賞したシャギーとのタッグ作品『44/876』(2018年)とそのツアーを経て、ますます精力的に動いているスティングが、早くもソロでのニュー・アルバム『My Songs』をリリースした。今回は自信たっぷりな表題が示すように、ポリス時代を含めた40年以上のキャリアから自作曲を選び、それを2019年の視点からコンテンポライズした作品となっている。
もちろんスティングと過去曲の関係はこれまでも密接なものであった。ライヴ盤『...All This Time』(2001年)が結果的にグレイテスト・ヒッツ的な演目になったように名曲をライヴのセットに織り交ぜてくるのは常として、外部の客演で自曲のフレーズを歌い直す機会も多々ある。グラモフォンでのクラシック時代にもポリスやソロの曲をオーケストラ・アレンジで再演しているし、再解釈という意味ではソロ活動25周年を記念したリマスター・ベスト盤『The Best Of 25 Years』(2011年)にていくつかの曲にリミックスを施してもいた。が、歌唱や演奏パートを新たに差し替えるというリプロダクションの試みは、本人が〈Reimagined〉と形容する今回の『My Songs』が初めてのこととなる。
いわゆるセルフ・カヴァー作品がもっと早くに存在しても良さそうなものだが、恐らくはスティングが現役であるがゆえにこれまでは実現しなかったのだろうし、(矛盾するようだが……)同時に今作は彼が現役であるがゆえに実現した試みであるとも言える。資料によると、そもそも彼は当初“Brand New Day 2019”だけを制作してツアーに臨む予定だったそうだが、そのコンテンポラリーでエネルギッシュな出来映えが気に入った結果、14曲がスタジオでコンテンポライズされ(その他はライヴ音源)、アルバムに発展したそうだ。そうして生まれたのが単純にセルフ・カヴァー作とも言い難い今回の『My Songs』というわけである。

選曲の基準になったのは現在のスティングが普通に演奏している曲ということで、いわゆる隠れ名曲的なセレクションも検討したそうだが、〈そのほうがラディカルではないように思えた〉ため、あえてよく知られている楽曲中心のチョイスにしたという。その意図の通り、耳馴染みのある著名なヒットであるからこそ、再構築した結果が聴き手にもわかりやすくなっている。今回は基本的に過去のヴォーカル・パートは活かさず現在の歌唱やコーラスに差し替えられ、ミュージシャンの演奏パートに関しては部分的にオリジナルの素材を活用して組み合わせている曲もあるとのこと。収録曲については右のページを参照いただくとして、明らかに印象の違うものもオリジナルに忠実なものも含めて、いずれの曲でも彼自身の選んだ新しいアプローチを楽しむことができるはずだ。
絶大な影響力はもはや言うに及ばないが、それでもなお世界中を回りながら現役アーティストである意味を精力的に伝えてくれるスティング。この先もまだまだ良質な〈My Songs〉を生み出し続けてくれることだろう。
関連盤を紹介。
ポリスのアルバム。
『My Songs』収録曲はもう〈みんなの歌〉になってる!
1. Brand New Day(1999)
表題通りのポジティヴな昂揚感が漲るナンバーで、スティーヴィー・ワンダーのハーモニカで始まるオリジナルは同名アルバムからの先行シングルとして全英13位を記録した。数あるカヴァーでは、テルマ・ヒューストンが2007年作『A Woman's Touch』(Shout! Factory)で聴かせたゴスペル解釈のソウルフルな快唱が聴きもの。
2. Desert Rose(1999)
こちらも『Brand New Day』収録曲で、オリジナルにはスティングも〈世界でもっとも美しい声の持ち主〉と賞賛したライ歌手のシェブ・マミを迎え、ライが人気のフランスなどで特にヒットした。アルジェリアのライ音楽とラテンやヒップホップを融合して人気を博したシェブは、2006年作『Layali』(Virgin France)以降はいろいろあってリリースが止まったままだが……。
3. If You Love Somebody Set Them Free(1985)
『The Dream Of The Blue Turtles』から全米3位を獲得したソロ転向後の初ヒットで、今回のスティングはジャズ色をハウス風に置き換えて演奏している。その着想になっていそうなのがケニー・ボビアンによるゴスペル・ハウス解釈の“Set Them Free”(99年)で、『Cielo -Cinco』(Tommy Boy)のようなミックスCDでは重宝されてきた一曲だ。
4. Every Breath You Take(1983)
『Synchronicity』から英米で1位を記録したポリス屈指の名曲で、スティングも『...All This Time』に収めるなど現在もライヴには欠かせないナンバー。当然レゲエからジャズ、EDMまでカヴァーも数多いが、最大のインパクトはパフ・ダディが印象的なループを丸使いした『No Way Out』(Bad Boy)収録の“I'll Be Missing You”で、そちらも全米1位を獲得した。
5. Demolition Man(1981)
スティングがグレイス・ジョーンズの81年作『Nightclubbing』(Island)に提供したレゲエ調の曲が初出で、ポリスの同年作『Ghost In The Machine』にてロック・アレンジで披露されたもの。93年には映画「デモリッションマン」用にスティングが再録したり、以降もレイヴン&シャギーが歌ったり、何かと引っ張りだこの曲だ。
6. Can't Stand Losing You(1978)
ポリスのデビュー作『Outlandos D'Amour』に収録されたシングル曲で、当時は自殺を主題にした詞の内容で物議を醸したという一曲。フィーダーやRXバンディッツのパンキッシュなカヴァーやミーカ&アーマンド・ヴァン・ヘルデンのダンス調も良いが、ジャズ系のコンピ『Reggata De Lounge: Tribute To The Police』(Music Brokers)で聴けるラウンジーな解釈も孤独感をそそる。
7. Fields Of Gold(1993)
オリジナルは『Ten Summoner's Tales』から全英16位を記録したソフトな一曲で、翌年のベスト盤の表題に起用するなどスティング自身も特に気に入っている模様。エヴァ・キャシディやフォープレイ、ケイティ・メルーアのカヴァーも知られるが、マイケル・ボルトンがそのエヴァを迎えた『Gems: The Duets Collection』(Legacy)でのデュエットがいい感じ。
8. So Lonely(1978)
ポリスのデビュー作『Outlandos D'Amour』に収録されたシングル曲で、レゲエを採り入れつつ倍速のフックで感情を爆発させるナンバーのひとつ。アスワドやグレゴリー・アイザックが直球のレゲエ・カヴァーを披露していたほか、フランスのヌーヴェル・ヴァーグは2009年作『3』(Peacefrog)にてボッサ解釈を聴かせている。
9. Shape Of My Heart(1993)
『Ten Summoner's Tales』所収の哀愁を湛えた名品で、翌年の映画「レオン」でも使われたが、ナズの“The Message”(96年)でネタ使いされて以降は膨大なサンプリングによって急速に定番化。なかでもスティング本人を招いたクレイグ・デヴィッドの“Rise & Fall”(2002年)は全英2位、『Goodbye & Good Riddance』(Interscope)所収のジュースWRLD“Lucid Dreams(Forget Me)”(2017年)は全米2位という大ヒットに。
10. Message In A Bottle(1979)
ポリス『Reggatta De Blanc』の収録曲で、孤独×疾走モードでバンド初の全英No.1を獲得した大ヒット・チューン。ジョン・バトラー・トリオやジョン・メイヤー、30セカンズ・トゥ・マーズらも取り上げているが、ビル・ラズウェルが制作したマティスヤフの2006年作『No Place To Be』(Epic)所収のダビーなヴァージョンが良い出来。
11. Fragile 19. Fragile (Live)(1987)
『...Nothing Like The Sun』収録の繊細なアコースティック・ナンバー。〈9.11〉直後のソルトレーク五輪開会式で歌ったり、2016年にパリのバタクラン劇場の再開初日に出演する際にオープニング曲に選んだのも話題になった。カサンドラ・ウィルソンが2003年作『Glamoured』(Blue Note)に収めたヴァージョンなどカヴァーも名演が多い。
12. Walking On The Moon(1979)
こちらもオリジナルはポリス『Reggatta De Blanc』に収録で、全英1位を獲得した叙情的なレゲエ・ナンバー。そのままレゲエ方面でのカヴァーも多いが、ドイツのダブクサーヌ(オカダ・スーパーサウンドの変名ユニット)によるカヴァー音源をRSDことロブ・スミスが全曲でダビーに仕立てた『Police In Dub』(Echo Beach)所収のヴァージョンも孤独感を煽る。
13. Englishman In New York(1987)
『...Nothing Like The Sun』収録のシングル曲で、耳馴染みするレゲエの意匠もあってヒット規模以上に代表曲として定着した定番曲。シャインヘッド“Jamaican In New York”やナポレオン・ダ・レジェンドの“African In NY”といったカヴァーが著名なほか、ブラック・アイド・ピーズの2005年作『Monkey Business』(A&M)ではスティング本人を招いた“Union”にリサイクルされている。
14. If I Ever Lose My Faith In You(1993)
またもや『Ten Summoner's Tales』からの収録で、これは同作からのリード・シングルだったもの。90年代以降のスティングらしい大らかで優美なメロディーメイクもあってか、クリス・ボッティらのカヴァーも実にハマる。ダラス・オースティン制作の2006年作『Leavin'』(Verve)でナタリー・コールが披露したロウな快演も見事だった。
15. Roxanne (Live)(1978)
これも『Outlandos D'Amour』から。不発に終わったポリスのA&Mデビュー曲ながら79年の再リリースで全英12位のヒットを記録し、後にスティングも『...All This Time』や『Symphonicities』で披露したお気に入り曲だ。97年にはパフ・ダディの公式リメイクが出た他、ジョージ・マイケルの99年作『Songs From The Last Century』(Virgin)でのジャズ解釈も忘れ難い。
16. Synchronicity II (Live)(1983)
ポリスの『Synchronicity』でもひときわアグレッシヴな疾走感を擁し、シングルとしても全英17位を記録したロック・チューン。クイーンズライクが2007年のカヴァー企画盤『Take Cover』(Rhino)で取り上げたヴァージョンも、原曲の熱を踏まえた怒涛のヘヴィネスが印象的。
17. Next To You (Live)(1978)
ポリス『Outlandos D'Amour』の冒頭を飾っていた荒ぶるパンク・ナンバーで、スティング自身は『Symphonicities』で取り上げたことも。カヴァー例もアンスラックスなどそのまま激しめのバンド・サウンドが多く、なかでもオフスプリングが2005年のベスト盤『Greatest Hits』(Columbia)用に披露したヴァージョンはハマりすぎのカッコ良さ。
18. Spirits In The Material World (Live)(1981)
『Ghost In The Machine』から全英12位を記録したスカ風味の楽曲。パト・バントンが90年に取り上げた後、95年のサントラ『Ace Ventura: When Nature Calls』ではスティングとのコラボで再演した。2007年のコンピ『Backspin: A Six Degrees Ten Year Anniversary Project』(Six Degrees)にてカーシュ・カーレイがダブ仕立てで披露したことも。
35年に及ぶスティングのソロ・ディスコグラフィーをおさらい

脱ポリスを明示した初作。自身はギターに持ち替えてダリル・ジョーンズとオマー・ハキムをリズム隊に迎え、ブランフォード・マルサリスらを迎えてフュージョンのヴァイブを導入。カリプソっぽい“Love Is The Seventh Wave”の軽やかな冒険心も光る。

ニール・ドーフスマンと共同制作した2作目。母の死や南米ツアーの経験が影を落とし、生命や愛を主題にして曲に深みを増す一方、ポップなCMソング“We'll Be Together”が全米7位を記録した。ハイラム・ブロックからマヌ・カチェまで参加プレイヤーも多彩に。

今度は父の死を経験しての3作目。ポリス時代のプロデューサーでもあったヒュー・パジャムを招き、闇を抜けて光へ向かうような名曲“All This Time”などがヒットしている。現在に至るまでバンドのギタリストを務めるドミニク・ミラーもここから初参加。

ヒュー・パジャム制作を継続しつつもドラムスがヴィニー・カリウタ、鍵盤がデヴィッド・サンシャスに替わり、肩の力を抜いて状態で臨んだからか現在も頻繁に披露される楽曲を多く含む一枚。哀愁のギターが光る“Shape Of My Heart”はドミニクとの共作だ。

ソロ・デビュー10周年記念のベスト盤『Fields Of Gold』を間に挿んでの5作目。クワイアを従えたサザン・ソウル調の“Let Your Soul Be Your Pilot”や直球のカントリー“I'm So Happy I Can't Stop Crying”など、全体的に落ち着いた歌心を聴かせるマイルドな一枚に。

ゲイリー・ニューマンと仕事してきたキッパーをプロデューサーに抜擢し、全体的にポジティヴな活力を取り戻したような転機作。シェブ・マミの快唱が躍る“Desert Rose”やジェイムズ・テイラーを迎えた“Fill Her Up”などゲストの色を取り込む作りも新鮮だ。

訪れていたイタリアで〈9.11〉を知り、その当日の晩に行ったステージの模様を急遽収録したライヴ盤。“Fragile”をオープニングに披露し、ポリス時代も含む過去の名曲群をその時点の最新バンド・アレンジで聴かせていくという意味では『My Songs』にも近い。

引き続きキッパーを参謀にした7枚目のオリジナル作で、ダンス・ヒットした“Stolen Car(Take Me Dancing)”などシンセ主体のアーバン寄りなトラックが目立つ。グラミーに輝いたメアリーJ・ブライジとのデュエットのほか、アヌーシュカ・シャンカールらも客演。

クラシックに傾倒して2006年の『Songs From The Labyrinth』から契約したドイツ・グラモフォン録音における3枚目。その間のポリス再結成ワールド・ツアーも作用したのか、バンド時代も含む〈マイ・ソングス〉をオーケストラ・アレンジで披露している。

ロブ・マテスをプロデュースに迎えた10年ぶりの書き下ろしアルバムは、故郷ニューカッスルを舞台に造船業の衰退などを描いたミュージカルの楽曲集で、トラッドやシャンティも交えていつも以上に英国色が強め。AC/DCのブライアン・ジョンソンらが客演。

13年ぶりの純然たるオリジナル作で、スタジオへ向かうバンドマンを気取ったジャケの通り、ドミニクやヴィニー、ライル・ワークマンら演奏メンバーとの共作が大半を占める。プリンスの訃報を受けて書いたという“50,000”など、大人のロックが並ぶ一枚だ。

〈白いレガッタ〉から約40年、本場の大ヴェテランたるシャギーとタッグを組んだまさかの本格レゲエ・アルバム。モーガン・ヘリテイジとアイドニアを迎えた冒頭からシャギーの色が濃く染みだすも、シャープな円熟歌唱で自身の世界に引き込む支配力は流石。