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クロスオーバーやジャズファンクと絶妙に異なる音

――柴崎さんは『CROSSOVER CITY』をどのように聴きましたか?

柴崎「さっきおっしゃっていた通り、1970年代生まれの栗本さんの世代的な美意識を感じました。僕と同じ1980年代以降生まれのリスナーはよりベタな電子音やファジーなサウンドに惹かれる傾向があると思うんですが、よりレアグルーヴ的な視点から気持ちいいものが選ばれている印象です。

それらも当然魅力的ですが、個人的な好みで言うと、今回の収録曲では鳥山雄司さんの曲や鈴木茂さん監修の『SUNSET HILLS HOTEL』収録曲、エレクトーン奏者の野田ユカさんの曲とか、80年代後半の音源に惹かれてしまうんですよね」

栗本「なるほど。そこは、僕としてはコンピの中核ではなく、どちらかというと幅を持たせるために選んだところですね。その辺をクローズアップしたコンピがあってもいいかもしれません」

柴崎「80年代半ばから音の質感がガラッと変わりますからね。生楽器の演奏が何よりアイデンティティだったところへMIDIが急速に浸透していくという、ある意味で自己矛盾と言える状況が出てくる。そういう拡散と爛熟の姿が刻まれた音源に魅力を感じるんです。

その点、今回栗本さんが選んだ曲たちは、1980年前後のいちばん美味しい食べ頃のフレッシュなものが多いですよね。逆に70年代半ばまで遡ると〈クロスオーバー〉や〈ジャズファンク〉と呼んだほうがしっくりくる場合が多いわけですが、そういうものもあえて避けているんだろうなと思いました」

栗本「ええ。音の質感がザラついているので、その辺は今回のテーマ上、あまり選べませんでした」

柴崎「それこそストレートなレアグルーヴ的世界になってきますからね」

栗本「収録曲で言うと、鈴木宏昌の“Out Of Focus”はギリなんです。あれはメロウな曲ですが、アルバムの他の曲はファンキーすぎて選べなくて」

柴崎「そう考えると、70年代末~80年代初頭のカシオペアやTHE SQUAREの成功が本当に大きかったんだろうなと改めて思います。そこで潮流がガラッと変わってシーン全体のポップ度が上昇している。

それでも、例えばキングのELECTRIC BIRDレーベルの音源は硬派な本格派ぶりが濃いめに残っていたり、各盤を聴き比べるとレーベルによるカラーの違いが浮き彫りになって面白いです」

栗本「そうそう。ジャズの名残がしっかりあったり本格的なブラジリアンを取り入れていたりするので、個人的にはキングの音がいちばん好みかもしれない」

 

日本のポップスを洗練させたフュージョン出身の演奏家や編曲家

――シティポップとの接点についてはいかがですか?

栗本「スタジオミュージシャンがフュージョンをやっていたパターンは多いですね。寺尾聡をバックアップしていたパラシュートなんかが顕著な例ですが、シティポップのサウンドを作っているミュージシャンはほぼ全員フュージョンをやっていたと言っていいくらい。

シティポップだけでなく、アイドル歌謡の曲にもフュージョン人脈は参加しています。松田聖子には日野皓正が曲を書いてますね(“夏服のイヴ”)。そもそも松田聖子作品のクレジットだけ見たら、フュージョンとほぼ変わらない。中森明菜の“ミ・アモーレ〔Meu amor é…〕”の作曲は松岡直也ですし、特に80年代前半、フュージョンとシティポップ、歌謡曲は密接な関係にありました」

柴崎「演奏力の高いフュージョン系ミュージシャンがニューミュージック全般の制作現場で重用されていたし、彼ら自身もそういった仕事をガンガンこなしていた。だから、メインストリームのポップスの中にフュージョンのエキスやイディオムが滲み出ていたのは当然だと思います」

栗本「プレイヤーだけじゃなくアレンジャーもそうで、例えば今回“Corner Top”を収録した清水信之さんなどがそうですね。EPOや大江千里などのアレンジャーとして知られていますが、松岡直也と一緒にバンドをやっていたこともあるので、ポップスとフュージョンの間を自由に行き来していた存在ですし、そういったミュージシャンは当時多数いたわけです。だから自身のソロでも、歌モノと並んで自然とインストのフュージョンもやってしまえる」

柴崎「先日、角松敏生さんに新作についてインタビューした際、杏里さんの作品以来数十年ぶりに瀬尾一三さんと仕事をされた時のことを語っていました。瀬尾さんが〈複雑なハーモニーの曲のアレンジをひさびさにやれて嬉しいよ〉と言っていたと。もちろん瀬尾さんはフュージョンじゃなくフォーク出身なわけですけど、ニューミュージック全盛時代にはシティポップ系の――つまりフュージョン的なハーモニーにも近い――洗練されたアレンジも手がけていたんですよね。

大野雄二さんや井上鑑さん、佐藤準さん、鈴木茂さんなど隙あらば複雑で高度なハーモニーを入れてくる優れた作曲家・アレンジャーがいたからこそ、日本のポップスは磨き上げられていったんです。それが、いま聴いてもフレッシュさが失われていない理由だと思いますし、当時のフュージョンにも編曲視点から魅力的なものがたくさんあります」