近年、海外で圧倒的人気を誇る高中正義。シティポップリバイバルに続くJフュージョン再評価の流れのなかでも、とりわけカリスマ化しているギタリストだ。そんな〈現象〉を受けて今回は、これから高中の音楽に触れるリスナーに向け重要作をレビューで紹介しよう。まずは2024年8月にアナログ再発された『SEYCHELLES』『TAKANAKA』『AN INSATIABLE HIGH』『SUPER TAKANAKA LIVE!』の4枚を取り上げる。 *Mikiki編集部


 

高中正義 『SEYCHELLES』 キティ(1976)

フライド・エッグ、サディスティック・ミカ・バンドを経て、サディスティックスの一員として活動中だった高中が1976年7月1日にリリースした1stソロアルバム(50周年!)。Jフュージョンリバイバル以降、いまや海外や若いリスナーの間で大人気作になっているが、〈世界のTAKANAKA〉の個性はこの時点で確立されていた。“蜃気楼の島へ”“憧れのセーシェル諸島”“TROPIC BIRDS”といった曲名とアルバムタイトル、ジャケットに象徴されるトロピカル/リゾート感においても、ギタープレイや音楽性においても。

1曲目“OH! TENGO SUERTE”からしてそうで、林立夫のドラムと後藤次利のベースが織り成す軽妙なグルーヴ、今井裕の温かいオルガン、そしてスペイン語の歌詞(作詞は高橋幸宏)を歌うTan Tan(森野多恵子)の声といった要素が絡まり合った聴き心地は極上だ(ほか、パーカッションには浜口茂外也と斉藤ノヴが参加している)。主役の高中はアコースティックギターをキラキラと奏で、トークボックスも駆使し、スライドバーも用いて優雅に泳ぐようにギターに歌わせている。2曲目“トーキョー・レギー”は高中が歌っており、いま特に新たなファン層から求められている人気曲。その理由はシティポップとしても聴けるからだろうが、インストだろうと高中の音楽の肝は歌心だと言える。“蜃気楼の島へ”のメロウネス、“FUNKEE MAH-CHAN”“バードアイランド急行”のファンクネスなど聴きどころは多いが、通底するのはやはり歌心なのだ。

そんななか異色なのは、9分近い大曲の“TROPIC BIRDS”。井上陽水も参加したコーラスが響く序盤を経て、ジェイク・コンセプションがサックスを激しく吹き、リズムのキメなども複雑に聴かせている。緊張感に溢れたプログレッシブロック的な魅力もある曲で、高中のロックギタリストとしてのキャリアとクロスオーバー/フュージョンがブームになっていく時代の息吹の両方を感じさせるのが魅力だ。

 

高中正義 『TAKANAKA』 キティ(1976)

前作から1年足らず、1977年3月5日にリリースされたこの2ndアルバムも、いま絶大な人気を誇っている。その理由のひとつは、なんといってもジャケット。赤い太めのスーツを着て蝶ネクタイをし、オールバックの髪と口髭、そしてストラトキャスターを抱えて脚を広げた高中の姿は、いま若いファンのコスプレの対象になっているし、高中のステージ衣装の定番も『TAKANAKA』ルックだ。

音楽的には、“SUMMER BREEZE”“MAMBO NO.5 (DISCO DANGO)”“MAMBO MAGIC”が象徴するようにラテン音楽のリズムへのアプローチが顕在化。また、シンセサイザーも多用されるようになった。息の合った演奏で複雑なキメやユニゾンを圧倒的な演奏力で聴かせる熱い演奏は、まさにジャケットどおり情熱の〈赤〉のイメージ(バックはベースに高水健司と小原礼、ドラムスに井上茂と村上“ポンタ”秀一、ギターに安田裕美、キーボードに佐藤博と深町純と松岡直也と今井裕、パーカッションに浜口茂外也と斉藤ノヴという布陣)。代表曲“READY TO FLY”はサディスティックスでも演奏されたが、上昇していくようなギターのフレーズを聴いていると空を飛んでいるような気分になれる。バンドの演奏も当然ながらすさまじい。

他方、リラクシンに心地よく浸れる〈機能性〉も高中の音楽の魅力だ。メロウな“I REMEMBER YOU”やギターとシンセとストリングスが中心の“APRIL WAVE”はそちらの面を代表する曲で、アルバムに緩急をつけている。

 

高中正義 『AN INSATIABLE HIGH』 キティ(1977)

前作から9か月後の12月1日に発表した3rdアルバム。米LAのララビー・スタジオで録音しており、アメリカのハイウェイと思しきジャケットも印象的だ。アメリカ録音の成果は豪華な参加メンバーを見るだけで明らか。ベースにチャック・レイニー、ドラムにハーヴィー・メイソン、パーカッションにパウリーニョ・ダ・コスタ、キーボードにパトリース・ラッシェン、ホーンにタワー・オブ・パワーといった強烈なセッションプレイヤーたちが参加している。〈TAKANAKA〉の音楽は初めから世界水準だったのだ。

聴きどころはなんといっても、表題曲のほかほぼ全編で聴けるリー・リトナーとのギターによる掛け合い。ソロを交代で聴かせてバトルしたり、ユニゾンでぴったりと重なり合って奏でたりと、高中 × リトナーの個性のぶつかり合いと融合が楽しめる。ブラジリアンやカリブ海的なリズムは“M5”などで聴けるが前作より後退しており、全体的にやはり西海岸的なフュージョンやソウル/ファンクがベースになっている。ファンキーな“SEXY DANCE”もディスコっぽい“E.S.P.”も軽快で素晴らしいが、歌心溢れる“MALIBU”“SUN DROPS”“GOOD (BAD?) OLD DAYS”といったメロウサイドも見事。

 

高中正義 『SUPER TAKANAKA LIVE!』 キティ(1980)

1980年3月1日に発表された初のライブアルバム。前年12月23、24日に開催した日本武道館での井上陽水とのジョイントライブの模様が抜粋されている。メンバーは高橋ゲタ夫(ベース)、上原裕(ドラムス)、井上茂(ドラムス)、石川清澄(キーボード)、小林泉美(キーボード)、椎名和夫(ギター)、土岐英史(サックス)、中島御(パーカッション)、菅原裕紀(パーカッション)という強力な布陣。ツインドラム体制がバンドのリズム&グルーヴを強化しており、高中の熱いプレイもあいまってスタジオアルバムでは聴けないホットさを浴びることができる。

いまでも人気な“BLUE LAGOON”で幕を開け、“READY TO FLY”といった代表曲を挟み、サディスティック・ミカ・バンド時代の切なげな名曲“黒船”で終幕するセットリストの構成は近年のライブにも通じる。加えて、やはり前述のとおりライブならではの熱気に満ちた演奏が聴きどころで、“BLUE LAGOON”のテンポの速さ、技巧的なキメがグルーヴを生む“EXPLOSION”、歪んだ音色とツインドラムの迫力に圧倒される“TROPIC BIRDS”、激しいソロの応酬が鬼気迫る“READY TO FLY”などは圧巻の一言。いまもツアーを精力的に続け、ワールドツアー終幕後の今秋は国内ツアーの開催を控えている高中だが、若き日の熱演にこの名ライブ盤で触れてほしい。