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歌は命と同じ

――それこそ「紅の豚」を彩った加藤さんの歌や、坂本さんが作りつづけていた映画音楽がそうですよね。

加藤「“時には昔の話を”は映画公開の5年前に曲が出来ていて、『MY STORY 時には昔の話を』(1987年)というアルバムに入っていたんですね。宮崎さんがアルバムを聴いて声をかけくださったんですけど、そこに“陽ざしの中で”という曲も収録していて、ジーナの〈(ポルコは)日差しの中へはちっとも出てこない〉というセリフはあの曲にかかっているのかなと思います。

宮崎さんは〈“時には昔の話を”は、僕は歌詞がすごく大事だと思う〉と言うので、〈でもアレンジがひどかったでしょ?〉と私が言ったら、〈そうですよね! あのアレンジがね~!〉とおっしゃるんですよ。あの時ほど嬉しそうな宮崎さんの顔は見たことなくて、それで意気投合しちゃった(笑)」

江﨑「ははは! 面白いエピソードですね(笑)」

加藤「実は事情があって、制作終盤の土壇場に作った曲だったんです。それで付け焼刃的にアレンジを発注して滑り込みセーフ、というレコーディングだったので不本意だったんですね。それで映画のためにアレンジを新しくし、あたかも新曲であるがごとくレコーディングさせていただいて。

映画の中身を踏まえて作った歌ではなかったので、それを意識してか、宮崎さんがわざわざエンディングに絵を描き下ろしてくださいました。サン=テグジュペリの『夜間飛行』に影響を受けた郵便飛行士たちの絵を」

――その“時には昔の話を”を今回、ディスク2で再録なさっています。江﨑さんがピアノ、常田俊太郎さんがバイオリン、村岡苑子さんがチェロというメンバーですが、江﨑さんがアレンジや人選を担当されたのでしょうか?

江﨑「いえ、この曲に関しては菅野よう子さんの編曲があって、それを僕のピアノトリオでやった形でした。僕のトリオでご一緒させていただくきっかけになったのは、去年12月のソロコンサートへ加藤さんに来ていただいたことです」

※2024年12月15日に東京・恵比寿ザ・ガーデンホールで開催された〈月冴ゆる〉。上述のピアノトリオと、ゲストとして長塚健斗(WONK)、jo0ji、Hana Hopeが出演した

加藤「クリスマスコンサートでしたね。素晴らしかったです」

江﨑「ありがとうございます。それで終演後、〈トリオで一緒にやりましょう〉と言ってくださって」

加藤「オリジナルは33年前のレコーディングですが、あの素晴らしいオリジナルに勝るものを作るのは大変なんです。ただ、この歌をずっと歌ってきた私の気持ちとしては、ちょっと甘い、スウィートな感じがするんですね。キーも変えているので、現状ステージで聴いていただいている今の私の“時には”をレコーディングしておきたかったので江﨑さんたちにお願いしました。アレンジは同じですが、だいぶ違うものになったと思います」

――江﨑さんは“時には昔の話を”を録音されていかがでしたか?

江﨑「〈本物だ〉と思いました(笑)。加藤さんに引っ張っていただきましたね。〈せーの〉で一発録りしたんですよ」

加藤「すごく楽しかったです」

江﨑「メンバーもそれぞれ思い入れが深い曲でもあったので、レコーディングは音楽が一気に形になる時の奇跡を感じられた瞬間でした。

いまはクリックを聴きながら録音したり、あらかじめビートが組んであったりすることが多いので、呼吸を共有するレコーディングが減ってきていますが、それで抜け落ちてしまうものって間違いなくあるなと。あたたかさや音楽が呼吸している感じ、命みたいなものですね。当たり前ですが、今回のレコーディングでそれをもう一度思い出せました」

加藤「“80億の祈り”のアレンジも素晴らしかったですね。あのイントロがすっごく好き。日本の風土感というか、何とも言えない立ちのぼる空気や質感、こちらを包んでくれる湿度があるんですよね。江﨑さんのトリオでいつか歌ってみたいです」

江﨑「ぜひ僕のコンサートに歌いに来てください」

加藤「江﨑さんってちょっと不思議な人で、姿や話し方はすごく優しい感じだけど、そういうふりをしてる面もありますよね(笑)。優しさと相克するもの、激しさや何かに抵抗してぶち壊そうとする面も持っているんじゃないかと想像しています」

江﨑「あはは。あるかもしれませんね(笑)。僕は反抗もせず、まっすぐ育ってきたと思われがちですが、そんなことはなかったので。常に何かに抗がっていると思います」

加藤「“80億”は、曲の作り方も整理がついていない混乱状態で投げ出されている感じなんです。私はそれをできるだけシンプルな言葉にして、踏み石ぐらいにはしておきたいと思いました。でも結局、それは踏み石でしかなくて、そこにステップしてジャンプしてくれればいい。向こう岸へ行くにはよすがになるフックが必要で、音楽や言葉はそういう踏み石になるんじゃないかって思うんだけどね」

――先ほどの話に戻りますが、音楽や歌には一過性的に消費される面でなく、作品として残っていくからこそ発揮する力がありますよね。

加藤「ただ、私も作って放り出しちゃったものはたくさんあるので悩ましいですよ。泣きたくなっちゃう。残らなかったとしても、それはその歌の運命なんですね。歌というのは命と同じで、何らかの運命の中で生きつづけるんです」

――「歌は命と同じ」というのは、加藤さんがおっしゃると重みがありますね。

加藤「歌が生まれても、生まれた命がどうなっていくかはわからない。一生懸命育てる命もあるし、自分で勝手に育っていく命もあるし、一緒に生きてくれる命もある。ちょっと迷惑だなっていう命もあるんです(笑)」