聖と俗を描いたシングル、ブラジル音楽との衝撃的な出会い
――久しぶりの佐橋さんとのレコーディングはどうでしたか?
「実は“Veranda”のアレンジには、かなり試行錯誤がありました。いわゆる〈ニューヨークシャッフル〉と佐橋さんが呼んでいた、ソフトロック的なシャッフルビートは共通の好みだったのですが、最初にいただいたアレンジは自分が思い描いていたものと少し違っていて。ポップすぎるというか……いや、自分で〈ポップな曲を書きたい〉と言っておきながら、当時の自分は本当に面倒くさいやつだったなと思いますね(笑)。
もちろん、佐橋さんのアレンジは大好きなんです。ポップで響きも良くて、自分では思いつかないようなコードやアイデアがたくさんある。でも最終的には初期のデモに近い、リズムボックスとギター、アコースティックギターだけに近いアレンジに戻していきました。シンセベースやピアノも少し入っていますが、骨格はごくシンプル。そこに、佐橋さんらしい美しいコード進行や展開も散りばめられています」
――装飾を取り外していくことによって、佐橋さんのポップセンスがより際立ったともいえますよね。
「まさにそうなんです。あと、当時の僕はとにかくリズムボックスの音が大好きでした。東芝EMIのスタジオに、使われていないローランドの古いマシンが転がっていて、TR-66というボサノバなどのリズムプリセットが付いたモデルだったんですが、それを譲り受け、部屋で流しっぱなしにしながら曲を作るのが楽しくて。それこそスライ・ストーンやシュギー・オーティスみたいな音やムードを自分の曲に取り入れたかったんです」
――カップリング曲“Tears of Enamel”の制作についても教えてもらえますか?
「正直、はっきりとは覚えていないんですよね(笑)。クレジットを見ると、佐橋さんとの共作になっているのだけど……どうしてだったんだろう。うっすら記憶にあるのは、EMIのミーティングルームで佐橋さんがギターを弾き、僕がその横で歌っていた光景です。佐橋さんがコード進行を考え、そこに僕がメロディを乗せていったのかな。
ただ、この湿り気のあるコード進行はかなり自分らしさがあるんですよね。〈歌謡曲の延長線上にあるボサノバ〉というか。しかもセックスについてかなり赤裸々に歌った歌詞で、“Veranda”と合わせて聖と俗の両面を描いたような作品でもある」
――ボサノバといえば、“Veranda”にもブラジル音楽の影響を感じますよね。
「ちょうどブラジル音楽にどっぷりハマっていた時期でした。J-WAVEの『SUPER LINE‘J’』という番組でDJをしていた時、ハイ・ラマズのショーン・オヘイガンがゲストに来てくれて、彼が選んだアルバムの中にマルコス・ヴァーリの“Garra”があったんです。それを聴いて、〈なんだこれは⁉〉と衝撃を受けました。
ジョアン・ジルベルトやアントニオ・カルロス・ジョビン、ジャヴァンくらいまでは聴いていたのですが、マルコス・ヴァーリは初めてで。しかも、彼の音楽は欧米のロックやポップスの影響下にあるんだけど、コード進行にはどこかストレンジでサイケデリックな要素もある。そこに完全にやられてしまって、一気にのめり込んでいきました。ただその頃は、ブラジル音楽のレコードがあまり手に入らなかったので、入手したばかりのパソコンを使って、ブラジルのレコード屋さんに片っ端からメールして買っていましたね」