ウォーターズは生きている
そして、ファン待望であろうピンク・フロイド『The Dark Side Of The Moon』のB面を全曲演奏するという場面もあり。それまで赤がベースとなっていた照明は“Money”では緑に変化し、がらっと印象が変わる。アンコールの“Two Suns In The Sunset”では、〈明るい曲とは言えないが、いまこそすべての人に聴いてほしい。僕たちは大きな危機に直面している〉〈核兵器は他の何よりも高価だ。その金を他のことに使ってほしい〉というMCに続いて演奏が始まる。
時々刻々と変化する危機的な世界情勢に目を向けることは確かに必要だ。たとえそうした問題に意識が向いていなかったリスナーであっても、本作の説得力に満ちたメッセージの連続に、蒙が啓かれるような体験をするのではないか。それがウォーターズにとって音楽を続けるうえでの核心であることは言を俟たない。一方で、ピンク・フロイドという、もはや神格化されているといっても過言ではない伝説のバンドの一員が、ここまで瑞々しくエヴァーグリーンなサウンドを奏でていることに、筆者は深い感銘を覚えてしまう。
齢80にしてこの現役感覚、このブレのなさ。ピンク・フロイドはいくつかのリユニオンを除いては活動を停止しているが、ウォーターズはまだ生きている。生きて、変わらずにメッセージを発し続け、サウンド的には漸次的に変わり続けている。変わらないことの尊さと変わり続けることの勇気。あるいは教育と娯楽の融合。そんな奇跡が確認できる映像と音源である。 *土佐有明
『This Is Not A Drill - Live From Prague』で演奏されている楽曲を収めたロジャー・ウォーターズの作品。
左から、92年作『Amused To Death』、2017年作『Is This The Life We Really Want?』(共にColumbia)
『This Is Not A Drill - Live From Prague』で演奏されている楽曲を収めたピンク・フロイドの作品。
左から、73年作『The Dark Side Of The Moon』、75年作『Wish You Were Here』、77年作『Animals』、79年作『The Wall』、83年作『The Final Cut』(すべてHarvest)