
最後の挨拶が近づくザ・フー、絶頂期のライヴ音源がまたしても公式リリース!
8月から〈The Song Is Over〉と銘打ったキャリア最後の北米ツアーに出ているザ・フー。そんなタイミングに合わせて日本では映画「ザ・フー ライヴ・アット・キルバーン1977」の劇場公開も始まり、近づく終局への感慨を噛み締めている人も多いかもしれない。そうでなくても、ここ数年のロジャー・ダルトリー(ヴォーカル)とピート・タウンゼント(ギター/ヴォーカル)は過去の遺産を定期的に届けることで偉大な伝説に輝きを与えてもいるわけで、このたび公式リリースされた『Live At The Oval 1971』もそのひとつとなるだろう。これは、71年9月18日に南ロンドンはケニントンのオーバル・クリケット場で開催されたバングラデシュの飢餓救済を目的とするイベント〈Goodbye Summer〉にヘッドライナー出演した際のパフォーマンスを収めたライヴ盤である。
71年の9月といえば、まさに“The Song Is Over”を収めた名盤『Who’s Next』のリリースから1か月後というタイミングだ。当時のバンドのコンディションは、一昨年の『Who’s Next | Life House』(のスーパー・デラックス・エディション)で初めてフル公開された71年4月26日のヤング・ヴィック・シアター(ロンドン)公演、71年12月13日のシヴィック・オーディトリアム(サンフランシスコ)公演それぞれの音源でも確認できるが、ちょうどその間に行われたオーバルのステージでも、キース・ムーン(ドラムス:78年逝去)とジョン・エントウィッスル(ベース:2002年逝去)を含む4人のパフォーマンスは極めてパワフルだ。シンボリックなギター、プリミティヴで主張の強いドラムと重いベースが支えるラウドな演奏、野生味を纏った猛烈な歌唱が響いてくる。オリジナルのマルチテープから新たにミックスされた音源の臨場感も申し分ない。

賑々しい“So Glad To See Ya”で幕を開けるセットリストは、当時の代表曲を軸とする定番の流れに直近作『Who’s Next』収録曲を盛り込んだ、この後のシヴィック公演にも通じるラインナップ。前年のライヴ盤『Live At Leeds』(70年)からシングル・ヒットした“Summertime Blues”をはじめ、“Substitute”(66年)や“Pinball Wizard”(69年)ら決定的なスタンダードが居並ぶ王道の展開は後年のライヴ(盤)でもたびたび披露されるものだが、やはり時代ごとの輝きには聴き逃せない熱気がある。
特に注目は、序盤に弾みをつける“Love Ain’t For Keeping”をはじめ、ジョンの歌唱曲“My Wife”、メロディアスな“Bargain”やブルージーな“Behind Blue Eyes”、さらに先行シングルとして全英9位を記録済みだった“Won’t Get Fooled Again”という『Who’s Next』収録の5曲だろう。“My Wife”以外の4曲はヤング・ヴィック公演でも披露されていて、すでに堂々たる存在感だ。また、『Who’s Next』のセッションで録音が試され、72年のシングル“Join Together”のB面にシヴィック公演の音源が収められた“Baby Don’t You Do It”(マーヴィン・ゲイのカヴァー)、ワイト島などでの演奏を経てこれも『Who’s Next』期に完成を見た“Naked Eye”も絶頂期のダイナミズムで迫る。そのように〈ロック史上最高のライヴ・バンド〉の風格を伝える15曲を締め括るのは、『Live At Leeds』での熱演も名高い“Magic Bus”。この日はピートとキースが機材を破壊してフィナーレを迎えたという。
そうした栄光のエピソードを開陳しながら現在進行形でフェアウェル・ツアーに臨んでいるザ・フー。歌が終わる前にまた何かしらの作品を届けてくれることにも期待しておきたい。