私的な愛唱歌をアイデア豊かに聴かせる26年ぶりのソロ・アルバム!

 またまた本物のレジェンドが再降臨だ。ザ・フーのフロントマン、ロジャー・ダルトリーの26年ぶりとなるソロ・アルバム『As Long As I Have You』が素晴らしすぎる。1曲目のタイトル・トラックは、ザ・フーがまだハイ・ナンバーズと名乗っていた下積み時代のレパートリー(オリジナルはガーネット・ミムズ)だが、そのテンションの高い歌声にノスタルジックだったり、感傷的な気分だったりは欠片もない。

ROGER DALTREY As Long As I Have You Republic/ユニバーサル(2018)

 元ドクター・フィールグッドのウィルコ・ジョンソンと連名で発表し、本人たちもビックリの大ヒットとなった『Going Back Home』(2014年)でのストレートかつシンプルなコンセプトを、今回はプライヴェートな愛唱曲に落とし込んでいる。タイトル曲やジョー・テックス“The Love You Save”などの王道ソウルからパーラメント“Get On Out The Rain”のようなファンク、さらにスティーヴン・スティルスやボズ・スキャッグスといった意外な人の曲もあり。例えばスティーヴィー・ワンダー“You Haven't Done Nothing”では思いっきりテンポを落としてヘヴィー・ナンバーに仕立てるなど、どれも意欲的な仕上がりだ。なかでも驚かされたのがニック・ケイヴの“Into My Arms”で、彼の曲中でも人気の高い慈愛に満ちたスピリチュアルな同バラードを、長年、小児がん撲滅のチャリティー活動に携わるロジャーならではの深い思い入れを込めたものにしている。

 全11曲中オリジナル曲は2つ。カヴァー曲がアグレッシヴな解釈やアプローチなのに比べ、どちらも家族や自身に穏やかな視線を送るナンバーで、作品全体の中で大きな〈環〉を成している。ほとんどの曲に盟友ピート・タウンゼントが参加し(両者が揃ってレコーディングしたのは本隊の2004作『Endless Wire』以来のこと)、いま表現したい歌世界を素直に形にしたロジャーのパフォーマンスに、ザ・フーならではのエッジを加えているところも流石。年輪と風格に満ちた本物のレジェンドだからこその完成度の高さだ。