40年ぶりのウェンブリー・スタジアム公演の模様を記録したライヴ・アルバムが登場! オーケストラを従えた大舞台はレジェンドのキャリアに新たな伝説を刻んだ!
もはや説明の必要もないレジェンドの中のレジェンドとして君臨し、世代を超えたロック・アイコンとして愛されているザ・フー。もちろんキース・ムーン(ドラムス:78年逝去)とジョン・エントウィッスル(ベース:2002年逝去)を含む伝説の4人も現在はロジャー・ダルトリー(ヴォーカル)とピート・タウンゼント(ギター/ヴォーカル)の2人だけとなっているが、ジョンの死をきっかけに互いへの敬意を蘇らせたという両名だけに、コンビ体制になってからは楽曲制作の機会こそ激減したもののマイペースなライヴ活動によってザ・フーの威信を輝かせ続けている。
考えてみれば、50余年に及ぶキャリアで2000本以上のライヴを経験している彼らは、その歳月のぶんだけロック史上最高のライヴ・バンドという賞賛を恣にしてきた。彼らの踏んできたのは歴史的なモンタレーやウッドストック、ハイド・パーク、ワイト島、グラストンベリーなどの名だたるステージであり、〈Live Aid〉やオリンピック閉会式、スーパーボウルのハーフタイムショウまでも経験しているのだ。
そうしたライヴ猛者としての実績はそのまま歴史的なライヴ盤の評判に直結してきたわけで、リーズ大学で収録された大ヒット作『Live At Leeds』(70年)を筆頭に、録音状態の悪さから当時は発表を断念されたハル・シティ・ホール公演『Live At Hull 1970』、最初の解散ツアーを記録した『Who’s Last』(84年)、ジョン最後のパフォーマンスも含む『Live At The Royal Albert Hall』(2003年)、そしてかの〈四重人格〉の40周年ツアーにおけるウェンブリー・アリーナ公演を収めた『Quadrophenia Live In London』(2014年)と、彼らのライヴは折々で記録されてきた。そして、今回その流れに連なることになったのが、『The Who With Orchestra: Live At Wembley』である。
これは2019年5月に北米から始まったオーケストラ共演ツアー〈Moving On! Tour〉の過程で開催された、7月6日のウェンブリー・スタジアム公演を記録したもの。シンフォニックなサウンドに挑んだ同ツアーは結局パンデミックの影響によって以降のUK公演がすべてキャンセルとなったため、ここに収録されたイゾベル・グリフィス・オーケストラとのパフォーマンスが本国における唯一の記録というわけだ。
2019年のザ・フーといえば、13年ぶりのスタジオ新作となる『WHO』のリリースを年末に控えていたタイミング。大舞台に向けて集中力は高まっていたはずで、ロジャーとピートはもちろん、サイモン・タウンゼント(ギター:ピートの実弟)、ジョン・バトン(ベース)、ローレン・ゴールド(キーボード)、ザック・スターキー(ドラムス)ら演奏陣も気合十分だったことだろう。20曲が並ぶセットは“Who Are You”(78年)からスタート。イントロが響くだけで客席のリアクションも一段と大きくなる“Pinball Wizard”(69年)や“Substitute”(66年)、“Baba O’Riley”(71年)といった決定的なナンバーを軸にしつつ、その時点ではまだリリース前だった『WHO』から“Hero Ground Zero”と“Ball And Chain”の2曲をしっかり馴染ませているのもポイントだろう。ドラマティックで重厚な弦楽とエネルギッシュな歌唱のコンビネーションも圧倒的。中盤にはオーケストラなしでバンド演奏のみのパートもあり、そこからアコースティック・セットの“Won’t Get Fooled Again”を挿入するなど、抜き差しと起伏で楽しませてくれる。大御所らしい余裕と熱気が入り混じった満足度の高い一作だ。
なお、長いブランクを経て、今年の夏からザ・フーは〈The Who Hits Back!〉ツアーをいよいよ開始する。そこからまた新たなライヴ作品が生まれてくるかもしれない。
左から、70年のライヴ盤『Live At Leeds』、2014年のライヴ盤『Quadrophenia Live In London』、2019年作『WHO』(すべてPolydor)