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過去があるからこそ

 いい流れに乗った『ちっぽけな夜明け』ながら、実際は野音の開催が決まる前から制作されていたという。

 「もともとは〈ラブ&ピースツアー〉を終えて、年明けに次のツアーが始まるまで制作に集中していて、その時にいままでの自分を見つめ直したり、自分の昔の曲を聴き返したりしたんです。ある時期までは、自分の中で〈新生PEDROとしてやるからには〉って勝手に決心して過去曲は封印みたいにしてたんですけど、自分の昔の曲を聴いたら、自分自身の弱さを歌っていて、それがいまの自分にとっての讃美歌みたいな、応援歌みたいに感じて、どこか救われたような感覚になったんです。そうやってPEDROの曲を聴いて救われたよってお客さんが言ってくれて凄く嬉しいし、それならやっぱり自分の本心を書かないと意味がないなって気付かされました。気持ちをうまく言葉にできなかったり、本心をさらけ出すのが怖かったりするけど、自分がPEDROを選んでやっているからこそ、このPEDROというもので自分をできる限り表現しようって改めて決心して今回の作品を作っていって、そしたら、総じて〈原点回帰〉がテーマになってるなって気付きましたね。ただただ〈前に進もう〉じゃなくて、ちゃんと〈過去の自分があるからこそだよね〉っていうところに一度立ち返って進んでいこうっていう作品になりました」。

PEDRO 『ちっぽけな夜明け』 浪漫惑星(2025)

 本人が語るように〈原点回帰〉の意識が根底にあった作品だからこそ、その原点のひとつである野音にも繋がる楽曲集となったのだろう。その野音のアンコールでも最初に披露された“1999”は、生年を冠した曲名の通り、原点の原点から自画像を描いたようなオープニング・ナンバー。アレンジを担当したのは石毛輝(the telephones/Yap!!!)。PEDROとはさかしたひかる(ドミコ)制作の“春夏秋冬”と“グリーンハイツ”にアドバイザーとして絡んだ縁はあるものの、直接サウンド・プロデュースを手掛けるのはこれが初めてだ。

 「“1999”は最初に出来た曲だったと思います。これは自分を振り返ってみて、自己紹介ソングを作ろうと思って。自分の良いとこ/悪いとこ、昔どう思ってたか、それを経ていまはどう思ってるかを、ノートに書き出して、それをギュッてまとめて作りました。16歳の時に初めて作詞した“本当本気”の歌詞を見直して〈いま思ってることも、そんな変わってないな〉って感じたのも裏テーマというか。いろいろ経験して自分のちっぽけさも知ったけど、それでも少しでも良くしたいと思うからまだ叫んでるんだなって思ったので、あの時の青い気持ちに思いを馳せながら書いています。曲調としてはキャッチーでわかりやすい、ちょっとダンス・ミュージックっぽい、ノリやすいバンド・サウンドにしたくて石毛さんにお願いしました」。

 その石毛が今回もアドバイザーを務めたさかしたのプロデュース曲は“いたいのとんでけ”と“拝啓、僕へ”の2曲を収録。まず、驚くべき逆転の発想でベースレスのアレンジになった“いたいのとんでけ”は、野音のステージでもベースを置いてハンドマイクで自由に動き回るアユニの姿が印象的だった一曲だ。

 「去年〈浪漫乾杯会〉っていうイベントでドミコとも対バンをやらせてもらって、その時の打ち上げでひかるさんが〈踊れるんだったら、ベースなしで歌って踊る曲あってもおもしろいんじゃない?〉みたいに言ってくれた一言がきっかけで、作ろうと思って。で、それなら猟奇的で超カッコイイ曲を作りたいなと思って作りました。歌詞は自分がここ数年で感じた心の痛みを全部吐き出した感じっすね」。

 ここでは〈頭痛腹痛吐き気めまい〉のような具体的な苦痛に混じって、〈早起き自炊哲学ヨガ瞑想〉なども痛みの要因として歌われているのがユニークだ。

 「あくまで私からの視点の曲です(笑)。BiSHが解散して物理的に時間ができたときに、いままでしたことのない早起きや自炊をして生活を充実させようとしたら、そこで満足して曲作りが一切できなくなって、無気力状態みたいな感覚になって。まあ、ヨガも瞑想も私には向いてなかった(笑)。そんなここ数年の心の痛みを、あくまでも私の視点から書きましたね。ファンの人には〈この時期のアユニちゃんはこうだったな〜〉みたいなこともバレてるんで、それも楽しんでもらえるかなって思ったり。あと、PEDROって意味あることしか書いてこなかったので、これは音として楽しめる余裕のある曲、単純に音がカッコイイって感じで聴いてもらえる曲でもあるのかなとか思ったりしました」。

 さかしたによるもう一曲の“拝啓、僕へ”もサウンドの幅を広げた曲。重めのナイーヴな歌詞を、本人の幻想的なコーラスも交えたオリエンタルなサウンドが柔らかい雰囲気に包んでいる。

 「歌詞は重いですよね。こういう歌詞が軽く聴けるような、聴き心地がいい曲にしたくて。でも、これはデモの時と印象がまったく違くて、最初はもっとロック・サウンドっぽくしようかなとも思ったりしつつ、ひかるさんの好きなように仕上げてもらいました。ひかるさんがやっぱり凄くて、デモを渡した時から完成形が見えてて、そこをめざして作っていくみたいな感じがカッコイイなって。あと、歌詞のハメ方も一緒に考えてもらったりして、〈こういう考え方で曲を作ってるんだ〉って間近で感じて、勉強になることも多かったですね」。