
希望と覚悟
一方で、緩急のある軽快なアップ・ビートで野音でもストレートな観客の反応を引き出していたのは、“ZAWAMEKI IN MY HEART”。曲名からもわかるように田渕ひさ子が手掛けている。
「〈この1曲があったらノレるよね〉というライヴ映えするロック・サウンドを作りたくて、ひさ子さんにお願いしました。歌詞を何十回も書き直して、いま自分がもがいてることを詰め込めたので、歌ってて苦しくなったり楽しくなったりするのがおもしろいですね」。
この曲も含め、今作の歌詞では〈君〉という言葉で語りかける場面が目立つ。
「そうですね。これまで〈君〉っていう言葉は極力使わないようにしてました。いままでそういう曲を聴いても〈その人の身近な君の話じゃん〉って斜に構えていたんですけど、それって偏見だったというか、身近な人も大事にできないのにライヴ会場のいちばん後ろの人まで大切にできないよなって凄く思った制作期間だったので。実際に私の身近にいるバンドやチームの方に〈これ言って否定されたら怖いな〉〈伝わらないだろうな〉とか思ってたことも勇気を出して発言してみると、みんな凄く真剣に向き合ってくれて、手を伸ばしたらちゃんと握り返してくれる人が自分の周りにはこんなにいたんだって気付けて、〈君〉もそんな悪いものじゃないなって。ホントに大切にしたいものや大事な人のことは核心を突いてきちんと書こうと思いましたね」。
さらに“朝4時の革命”は、先述の“NIGHT NIGHT”の頃から編曲に関わり、前作でも“ラブリーベイビー”を手掛けたoniがアレンジしていることもあって、初期のPEDROに通じるキャッチーさも備えた端正なサウンド。〈星は瞬く〉〈行かなくちゃ〉などBiSHを連想させるワードが散りばめられているのもポイントだろう。
「壮大で聴きやすい曲にしたくて、oniさんにアレンジを頼むことを前提に作った曲です。歌詞ではBiSH解散から現在の自分の本心っていうか、アユニ・D以前の人間としての気持ちを書きました。BiSHについて何か言うのはあえて避けてたんですけど、そしたら〈こいつ、BiSH嫌いなんだ〉みたいに見当違いなことを思われちゃったので、いったん素直になろうと思って」。
革命が〈朝4時〉に起こるというのも夜行性のアユニらしいところだ。
「この制作期間、いろんなことが自分のなかで朝4時に繋がったんです。日中は〈もう太陽なんかクソ喰らえ〉みたいな感じで、一人でもがき倒しながら曲を作って、深夜とか朝方にスタッフさんに送ってたんですよ、ずっと。そこでアウトプットをしたら返信が来たり、深夜になって身近な人に話したりするので、自分が日中に悩んでたことがだいたい朝4時ぐらいに解決して。私は朝4時に革命が起きる日々なんだなって。あと、『ちっぽけな夜明け』っていうタイトルも同じ意図ではあるんですけど、勝手に自分を悲劇のヒロインに仕立て上げて〈自分は暗がりにいるんだ〉って思い込んでいても、やっぱり朝4時頃になると外が明るくなるんですよね。こんな自分にもちゃんと日は昇るんだって思える時間帯でもあったり」。

そして、野音でもアンコールの最後を飾った表題曲“ちっぽけな夜明け”が作品でもラストに位置している。自然体の平熱を湛えたこちらは前作で“明日天気になあれ”と“hope”を手掛けたゆーまおがサウンド・プロデュースを担当。
「これは、勝手に自分で壁を作って、自由奔放に孤独主義者みたいな生き方してきた私がまろやかになれたのも、強くなりたいと思えるようになったのも、人がいるからだな、人のおかげだなってことを綴った曲ですね。もうちょっと能動的に前に進もうとしてもいいんじゃないかなって自分に問いかけた時に出来た曲です。いままでエンディングはシューゲイザーみたいな曲が多かったんですけど、自分自身を解放するのに平熱でいられるって素敵なことだなと思って。肩に力入れすぎず、体温も上がりすぎず……それが出たのかもしれないですね」。
10月からは〈I am PEDRO TOUR〉がスタート。迷いなくPEDROを生きるアユニが転機を刻んだ『ちっぽけな夜明け』はここから何重もの意味を纏っていくだろう。
「タイトルを決める時に、いまの自分を表せる言葉を考えて、何十個も連打した言葉からスタッフさんに拾ってもらったのが『ちっぽけな夜明け』で、〈一回どん底に落ちて、這い上がろうとしてるPEDROの状況ともリンクするんじゃないか〉みたいに言ってもらえて決めたんですけど、最初は正直あまりピンときてなくて。ただ、野音が決まって、そのタイトルにもしていくなかで、いろんなことを気付かせてくれた言葉だなと思って。ちっぽけな自分にもちゃんと来てくれる夜明けは、私にとって希望と覚悟みたいなもので、いまは凄くしっくりきてます。環境的にも新しい幕開け、プラス原点回帰っていう、いろんなことがベストなタイミングの作品になったし、バンドは良い感じになっているので、私自身も能動的に動きながら進んでいきたいなと思ってます」。
上から、PEDROの2024年作『意地と光』、2023年作『赴くままに、胃の向くままに』、同年のシングル“飛んでゆけ”、同年作『後日改めて伺いました』(すべてユニバーサル)、PEDROが参加したART-SCHOOLのトリビュート盤『ART-SCHOOL 25th Anniversary Tribute Album “Dreams Never End”』(DAIZAWA/UK.PROJECT)、アユニ・Dの写真集「平熱」「執着」(共に水鈴社)、田渕ひさ子が在籍するtoddleとCARDのスプリット作品『Split』(FLAKE SOUNDS)、ゆーまおが在籍するヒトリエの2025年作『Friend Chord』(ソニー)、the telephonesの2022年作『Come on!!!』(DAIZAWA/UK.PROJECT)、ドミコの2023年作『肴』(ユニバーサル)