アメリカーナの解体と再構築
ディジョンのキャリアは、2012年に高校時代の友人であるアビラート・ラジュと組んだユニット、アビ//ディジョンに遡る。大枠でのジャンルこそ、長らくディジョンが愛聴してきたプリンスやディアンジェロ、チャカ・カーンのようなR&B/ソウルに属するだろうが、そのサウンドには二人が意気投合するきっかけとなったフリート・フォクシーズやボン・イヴェールといったインディフォークからの影響が色濃く投影されており、さらに(同じくフェイバリットに挙げている)ブリアルのような明滅するビートが鮮やかに鼓膜を刺激する。アビ//ディジョンでの活動時点ですでにPitchforkなどの音楽メディアには取り上げられており、ネイオとコラボした“Adore You”や、“Often”や“Ignore”といったヒット曲を通してシーンに存在感を示していた。
その後、2016年にユニットを解散し(本人いわく「特別な理由があったわけではない」とのこと)、ソロアーティストとしての道を歩み始めたディジョンは、一人になったことでより一層ジャンルの垣根を曖昧にするかのようなサウンドを描き始め、〈分解〉と〈再構築〉を繰り返していく。その中でも、当時の彼が特にフォーカスしていたのがアメリカーナだ。
2018年のインタビューで「アメリカ的な象徴や概念を引き裂いていくような感覚があるね。(中略)人間には、象徴や記号といったものを、人間性を表す奇妙で抽象的な表現として求めるような欲求があって、それが興味深いんだ」と語っていたディジョンは、2枚のEPを経て2021年にリリースしたソロ名義でのファーストアルバム『Absolutely』において、大胆かつ丁寧にアメリカーナを解体し、開放感に満ちたR&Bへと再構築している(軽快なドラムサンプルが印象的な人気曲“Talk Down”では、冒頭から〈Listenin’ to Gillian Welch(ギリアン・ウェルチを聴いている)〉というフレーズが飛び出す)。
ユニット時代の電子音楽的な側面は控え目に、生々しく録音されたギターやドラム、情感に満ちた歌声が聴く者の感情を強く刺激する。だが、その核には、大きな影響源として挙げているジョニ・ミッチェルのように、素朴かつ繊細で、だが無駄のないフォークの魅力がソロでもしっかりと備わっているのだ。
有色人種としての違和感
その独特なスタイルの背景には、ディジョン自身も公言している〈アメリカーナに影響を受けている有色人種としての違和感〉があるのだろう。そのルーツが黒人音楽を内包しているにも関わらず、(産業的な側面などから)強固に白人性と紐付けられたアメリカーナは、それ自体がどこか居心地の悪さを内包している。グアム出身の父親と、黒人と白人の間に生まれた母親のもとで育ち、幼少期にはドイツやアメリカの各都市を移動しながら育ったディジョンにとって、〈アメリカーナを分解・再構築し、自身の表現として作り変える〉というプロセスは、自分自身に対する探求と重なるものなのかもしれない。
それは、例えば近年のビヨンセのような〈ルーツを明らかにする〉というある種の活動家的な目的意識というよりは、音楽を窮屈なラベルで管理するのではなく、ただ〈あるがままの姿〉として捉えたいという個人的な思いに基づくものであるように感じられる。
そうした彼のバックボーンなどに触れたうえで、改めてボン・イヴェールとジャスティン・ビーバーの楽曲に目を向けてみてほしい。普段の音楽に対する感覚であれば、おおよそ並列に語られることはないであろう二組だが、ディジョンが携わった楽曲においてはいずれも純粋な歌を起点にしており、それに呼応するように周囲の楽器が鳴り始め、さらにコーラスが重なっていくことで美しい光景が広がっているのだ。
