アメリカのR&Bアーティストのディジョンが、2025年8月にセカンドアルバム『Baby』をリリースした。海外の大手音楽メディアが軒並み高く評価した本作は、従来のベッドルームR&Bとは一線を画す特別な輝きを放っている。
今年に入り、ボン・イヴェールやジャスティン・ビーバーの新作に立て続けに参加したことで次世代の音楽シーンを牽引するキーパーソンとして大きくフックアップされ始めたディジョンとは、一体どんな人物なのか。ライターのノイ村に解説してもらった。 *Mikiki編集部
ディジョンが追求し続ける〈理想の世界〉
2021年にThe FADER誌が実施したインタビューで、当時29歳のシンガー/ソングライター/プロデューサー、ディジョンことディジョン・デュエナスは次のように語っている。
「理想的な将来の姿は、今、自分が取り組んでいるような自発性や即興性のある音楽をそのまま追求すること。もっと人々が繋がりやすくなって、歌唱力やリズム感、作詞に優れた人たちが広く関わって、新しい扉を開いてくれるのが僕にとっての理想の世界なんだ。例えば、アリアナ・グランデをスタジオに呼んで、ルームマイクを1本置いて、僕たちが作ろうとしている〈音楽がただそこに在る〉ような世界を、彼女がどんなふうに解釈するのかを聴いてみたい」(筆者訳、一部中略)
当時、すでにブロックハンプトン“SUMMER”やチャーリーxcx“pink diamond”といった著名なアーティストの楽曲制作に参加していたディジョンだが、前述のインタビューから4年を経て、その〈理想の世界〉はより多くの人々を巻き込みながら、着実に拡大を続けている。
2025年における彼の活躍を挙げるだけでも、ボン・イヴェールの“Day One”(『SABLE, fABLE』収録)にシンガー/ソングライターとして参加し、全米チャート2位を記録したジャスティン・ビーバーのアルバム『SWAG』では、ヒット曲“DAISIES”“YUKON”を含む多くの楽曲でプロデュース/ソングライティングにクレジットされている(“DEVOTION”では歌声も披露し、9月5日にサプライズリリースされた最新アルバム『SWAG II』にも引き続き参加)。
何より、自身にとって2作目のアルバムとなる『Baby』は、10点満点中9点の高得点をマークしたPitchforkを筆頭に多くのメディアの称賛を集め、2025年の年間ベストアルバムに名を連ねるのが容易に想像できるほど、今年を代表する作品の一つとなっている。
インディ/メジャーの垣根を越えて支持を集め、ソロでも確かな評価を獲得した現在のディジョンは、〈今もっとも注目されているアーティスト〉と言っても過言ではない。その理由は、彼が冒頭の発言にもあった〈音楽がただそこに在る〉という感覚を追求し、ブレることなくその世界を描き続けてきたことにある。