
甘くテンダーな新風
そんなニーヨの音楽面を支えたのがノルウェー出身の2人組プロデューサー・チーム、スターゲイトだ。シェイ・テイラーもお抱えのブレーンだったが、ハープの音色を含めた万人受けするポップなサウンドでニーヨのシグネチャーを作り上げたのはスターゲイトだろう。第50回グラミー賞で〈最優秀コンテンポラリーR&Bアルバム〉部門の栄冠に輝いた2007年作『Because Of You』の表題曲も彼らとの共作。離れようとしても離れられない、君の魅力が僕を虜にする……という歌を、クラップ音をあしらったスムースな4つ打ちのトラックでポップに聴かせる妙技は、まさにスターゲイトの真骨頂。“So Sick”と同じく、全米チャートでR&B(7位)よりポップ(2位)の成績が上回ったことも、このチームの音楽性を証明することになった。
そしてニーヨのヴォーカル。ゴスペルを基盤とする伝統的なソウル・シンギングとは異なる甘くテンダーな歌い口がポップな楽曲と相まってメインストリームR&Bのシーンに新しい風を吹き込んだ。当時はポップ系のシンガーがティンバランドやネプチューンズと組んでR&Bやヒップホップに接近し始めていたが、ニーヨはR&B側からポップスに接近。そうしたR&Bとポップスのクロスオーヴァーもあって、アジアを含めた世界各国から〈ニーヨ以降〉と言われるフォロワーも誘発する。同時に、ショーン・ギャレットなど、ペンをマイクに持ち替えたシンガーの登場も促した。
シンガーとしてヒットを出しながらソングライターとしての本分も忘れず、意欲的に曲を書いていく中で、ビヨンセの“Irreplaceable”やリアーナの“Take A Bow”といった名曲も生み出した。が、曲を書いて歌うだけでなく、ダンスも達者なのがニーヨの強みである。その軽快なムーヴから連想するのはマイケル・ジャクソン(MJ)。もちろんMJは彼のアイドルで、ブレスを含めた発声、センシティヴなヴォーカルもMJからの影響が色濃い。歌とダンスに長けたフォロワーとしてはアッシャーやクリス・ブラウンもいるが、MJのポップネスを自身の作品にもっともストレートに反映させたのはニーヨだろう。自立した女性への賛歌でグラミー受賞曲となった“Miss Independent”を含む『Year Of The Gentleman』(2008年)とストーリー仕立ての『Libra Scale』(2010年)は、スーツとハットでキメたジャケットも含めてMJからインスピレーションを受けたオマージュ的なアルバムだった。なにしろ彼は、それらのアルバムを作る中でMJ本人から依頼を受けてMJのために曲を書いていたのだ。結局MJはニーヨの曲を歌うことなくこの世を去ったが、そんな交流を踏まえてニーヨは亡きMJをトリビュートするパフォーマンスを頻繁に行い、近年のステージでもMJオマージュを散りばめている。